143 友田とん 早川書房
本書はガブリエル・ガルシア=マルケスの長編小説『百年の孤独』を、まだ読んでいない友人たちの代わりに読む、という試みを綴ったものである。
…というのが書き出しである。あらすじを要約したり、背景を解説したりするのではない。小説を読む間心の中に湧き上がる驚きやワクワクを、何とか生のまま伝えたい、という無理な欲望に基づいて、本書が書かれたという。
そもそも『百年の孤独』は、もしかしたら読者をからかう冗談話として書かれているのではないか?と思った作者は、読む側もある種の冗談的な方法で受けて立てばいいと考えた。無数の挿話からなる元本を読み進めながら、読む側が連想したドラマや映画、コント、ネット上の文言などに次々と脱線し、やがてまた『百年の孤独』に戻る。そして、それを続ける中で、そもそも「代わりに読む」とはどういうことで、いかにしてそれが可能かを考え続けた本でもある。
作者は四年の歳月をかけて『百年の孤独』を代わりに読み、それを記録し、自主製作のリトルプレスとしてまとめ、300部作成し、文学フリマ東京というイベントで頒布した。残部は地方の本屋を尋ねて取り扱ってもらい、予想以上の好評を得て版を重ね、1500部を売り切った。これが楽しかったので、ついに自分でひとり出版社・「代わりに読む人」まで立ち上げた。そして2024年、「百年の孤独」文庫化に合わせてハヤカワ文庫から刊行されるに至ったのである。まるでわらしべ長者である。と本人が書いている。
さて、読んでたいそう楽しかった。ガルシア=マルケスは、遠い昔に何か読んだような気がする私であるが、記録が残っていない。で、代わりに読んでもらった本書を読んだ結果、どうやら『百年の孤独』は読んでないようである。記憶に引っかかるものがないので。そして、マルケスを読みつつ、作者の友田とんさんの心に想起された様々な経験やら妄想やらも同時に堪能し、一冊で何冊分も、あるいは映画やドラマやコントも含めて楽しめたような満足感に浸っている。そうか、こんな読み方があったか!と感心している。
本を読むとは実に個人的な経験であり、どんな読み方をしてもいい。そして、それはきっといろいろな形で読み手を豊かにするし、生き生きとさせる。とつくづく思える一冊であった。
引用は「『百年の孤独』を代わりに読む」友田とん より