あしあと  ちばてつや追想短編集

あしあと  ちばてつや追想短編集

122 ちばてつや 小学館

文庫本を十冊程度スーツケースに放り込んで旅に出たのだけれど、それだけではやっぱり足りなくて、電子本もいくつか仕込んであったのでした。これは電子本。ちばてつやの23年ぶりの短編集だそうで。

ちばてつやは満州からの引き上げ組だったそうで、同じように満州から引き揚げてきた漫画家たちと「中国引き揚げ漫画家の会」を作り、戦争の現実や証言を若い人たちに伝え残すために体験記を出版したり、原画展を開いたりもしたという。

「家路 1945-2003」では、彼の引き揚げ体験が丁寧にマンガで描かれている。引き揚げの悲惨さは、私も「ソ連兵へ差し出された娘たち」「羊は安らかに草を食み」などでも読んだことがあったが、漫画という表現で描き出されると、また違った形で心に迫ってくる。言葉では言い尽くせないほどのつらい思いで日本に帰ってきたこの体験を伝える。それはどんなに貴重で大事なことだろう。ましてやちばてつやのような大御所漫画家がそれを描き残すことには大きな意味がある。もっとこの本をみんな読むといいなあ。

そのほかにもトキワ荘の人たちとの交流のきっかけとなったエピソードを描いた「トモガキ」、名作『のたり松太郎』誕生前夜を描いた「グレてつ」などが収められている。

ちばてつやという人は、本当に偉大な漫画家だと思う。絵から温かい人柄がにじみ出てくるようだ。今という時代の最先端のマンガもいいけれど、こういう味わいのある静かなマンガも、ぜひたくさんの人に読んでほしいと願う。