64 岸本佐知子 筑摩書房
岸本佐知子は翻訳家である。この人の翻訳した本は、まず間違いなくおもしろい。私はルシア・ベルリンをこの人のおかげで知った。ジョージ・ソーンダーズの、今だからこそ骨身に染みるように面白く、そしてちょっとぞっとする「短くて恐ろしいフィルの時代」もこの人の翻訳だ。さらに彼女はエッセイも書く。それがまた、突拍子もなくおもしろい。彼女にしかできない妄想と現実逃避が、とんでもない世界を描き出している。この本は、そんなエッセイの最新作集である。
バスケットボールは前世紀の初頭、オレゴン州の大学寮の一室で生まれた。試験勉強に追われていた学生ジョナサン・ブラウンがむしゃくしゃして部屋の隅にあったゴミかごに向けて手近なボールをぶん投げたのだ。ルームメイトのマリオ・ロドリゲスは面白がってかごをもっと上に置き、さらに上に置き、うるさいと文句を言いに来た両隣の学生たちもこの遊びに夢中になった。二人はその年の試験には落第したが、全米バスケットボール協会の中庭には彼らの銅像が今も建っている…というのは、岸本佐知子が三秒で考え出した話にすぎないのだが、もしもあの夜のジョナサンとマリオの行動が少しでも違っていたらどうなっていたか。話はそこから展開するのだ。
妄想は妄想を呼び、思いもよらない場所に連れていかれる。そして、うっかりすると二度と戻ってこれない。そんなエッセイがあふれている。彼女のエッセイを読むと、この世は全く別の世界になる。それが美しい良いものであるかどうかは別にして。
ところで「国が悪の組織でつらい」は岸本佐知子の言葉である。どうかご自由にお使いくださいと彼女は言っている。この言葉を記したプラカードをもって、平和憲法を守るデモに参加したい。
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