55 クララ・デュポン=モノ 早川書房
時々行く県立図書館で、高校生読書活動推進リーダー「読書コンシェルジュ」によるおすすめ本が展示されていた。その中から選んだのがこの本。翻訳本はそもそもハードルが高いし、まったく知らない作者だったけれど、高校生に背中を押されて読んだ。フランスでは高校生が選ぶゴンクール賞、フェミナ賞、ランデルノー賞を受賞、日本でも第一回日本の学生が選ぶゴンクール賞を受賞した作品だという。そうやって若い世代が互いに本を勧め合うような企画っていい。本当にいい。上の世代から「これを読め、ためになるぞ」と押し付けられるのと全然違う意味合いで本と出会える。そういえば私も学生時代は友だちと良かった本を教え合ったりしていたものだ。今も夫や一部の友人とは情報交換してるけど、互いの興味や性格も知ったうえで勧めてくる本はたいていぴったりフィットするのでありがたい。本を勧め合う習慣がもっと浸透すればいいのになあ。
幸せな家庭に生まれた待望の第三子は重度の障碍を抱えていた。それを知った両親、兄弟たちの現実の受け止め方、生き方をそれぞれに描いていく。親は子どものためにどこまでも力を尽くし、長男は子どもの世話にのめり込んでいくが、長女は子どもの存在に徹底的に反抗し、無視をする。だが、介護に疲れ果てた家族を救うために行動したのは、実は長女だった。
芥川の羅生門ではないけれど、重度障碍者の子どもをどう捉えたかを両親、長男、長女のそれぞれの視点から描くと少しずつ違う景色が見えてくる。愛情深く心を尽くす両親も、自分を捨ててまで弟の世話に傾倒する長男もさることながら、弟の存在に腹を立て、傷つき、それでもある気づきから猛然と、しかしさりげなく行動する長女の在り方に、私は胸打たれる。彼女が何をやったかについて、家族はほとんど意識せず、気が付きもしないのだが、実はとても助けられ、支えられていたことが静かに描き出される。こういう生き方もある、こういう誠実もある。
暴君だった父と、その嵐を防ぐこと、逃れることに心を砕いた母と、自分で手いっぱいの姉のいる家庭で、私もこの長女の様に反抗し、戦い、最後にはひそかに彼らを支えたのではないか、とふと思う。そんな立派なものじゃないかもしれないけどさ。もっとも手のかからない、気を付けてやらなくても大丈夫な存在に見える一人の子どもが、どんな風に育ち、どんな風に生きたのか。そんなことをこの本から読み取りたくなる私である。