41 梨木香歩 新潮社
「本当のリーダーのみつけかた」以来の梨木さんである。私が心から信頼する作家のひとり。
これは、作者が新聞、雑誌、書籍などに寄せた、好きな本にまつわる書評、評論、解説文をまとめた本である。彼女が一読者として、どんな本が好きなのか、どんな本を読んできたのかがわかる。古くは2002年から、最近では2021年まで。インターネットが発達し、コロナが蔓延し、テロや戦争が起き、世の中が分断されていった日々、梨木さんは何を読み、何を考えていたのかが伝わってくる一冊。
世の中で持ち上げられ、大幅に売れた本はほとんど取り上げられておらず、題名すら知らなかったような本が大半。そして、彼女の紹介を読むと、どれも「読まなくっちゃ」と思えてくるから大変。これから読む本リストは埋まる一方なのに、読書力は年々衰えていく。間に合うかなー、私。生きてるうちに読みたい本を読みつくせそうになくて、焦る、困る。
読まなきゃと思った本のひとつをご紹介。「少年長編叙事詩 ハテルマ シキナ」である。
この本は、波照間島に伝わる神話から始まって、島人たちが豊かで平和な日常を送っていた様子を美しく詠いあげる。しかし、ある日突然、白刃を振りかざす一人の命令者がやってきて、島の生活を破壊し、島人たちをマラリアの蔓延する別の島へ強制疎開させた。命令者の専横に屈しなかった誇り高い少年は、軍靴で蹴り殺される。
最後には、識名校長が白刃にひるまず立ち向かい、人々は故郷の島へ帰ることになるのだけれど、すでに島人のすべてはマラリアにかかり、三分の一が命を落とす。これが後に「マラリア地獄ーもうひとつの沖縄戦」と呼ばれるものだ。
この沖縄戦に米軍は出てこない。人々の敵と呼べるのは日本軍そのものだった。国は軍しか守らなかった。マラリアに地獄の苦しみを味わう島人を前にしても、軍は所蔵している特効薬を渡さなかった。自らはマラリアから安全な地に駐屯し、島人を危険地帯に追いやっていたにもかかわらず、だ。
(引用は「ここに物語が」梨木香歩 より)
もちろん他にも様々な本が紹介されている。私はこの「ハテルマ シキナ」をはじめとしてかなりの数の本を図書館に予約した。こうやって知らなかった本に出会えることは、人生の幸せである。