130 間宮改衣 早川書房
初めての作者。どんな物語なのかもわからないまま、読んだ。図書館に長らく予約を入れていて、ようやく届いたのだけれど、その時にはもう、どこで何を知って読みたいと思ったのかは覚えていなくて。まっさらで読んだ分、衝撃がすごかった。すごい本だ。短くてあっという間に読めるけど、引き込まれる。そして、いろんなことを考える。SFなんだけど、今を生きる私に鋭く迫ってくる。そうだったのか、そうなんだね、そうだよなあ。最後は何度も頷きながら読み終えた。
「アルジャーノンに花束を」みたいに、かなりのひらがな交じりで物語は始まる。でも、主人公は知的障碍者というわけではない。決して死なない体になる融合手術を受けた、いつまでも若いままでいられる体の女性。お金持ちのおとうさんが彼女に手術を受けさせてくれた。なぜって、彼女は死にたかったからなんだけど。家族はみんな歳を取って死んでいってしまうけれど、彼女は死なないから長い時間を過ごすのに暇だろう。だから、家族史を書いたらいいと101年前におとうさんが言った。
これはわたし自身の話だけれど、90歳の実母の介護をしていると、様々な昔話が出てくる。あんなことがあった、あの時どうしておけばよかったんだろうという話がたくさんある。だけど、絶対にその時には戻れない。その時に分からなかったこと、今ならわかることが山ほどある。でも、今は、今でしかない。そんな母と、私は毎月、話し続ける。生きているのは今だから、今、わかることを、今、できることを考えよう。振り返り、理解し、考え直し、母はクリスチャンだから悔い改めることは悔い改め、自分を許し、正せばいいのだ。そんなことが、この物語とリンクする。人は最後まで自分を見つめることも、自分と向き合うこともできるのだ。
いやはや、すごい物語だった。今起きている様々な問題にも、今苦しんでいる人にも、きっと何かを届けてくれる物語だ。読んでよかった。