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「さらさらさん」大野更紗 ポプラ社
「困ってるひと」の大野更紗さんです。「困ってるひと」以降の彼女の文章を集めて本にしたもの。でも、「困ってるひと」を読んで、同じようなものを期待してはいけないとわかりました。
更紗さんは、難病患者として絶賛生存中です。そして、驚くほどがんばって仕事もこなしている。というのも、書くことで生きているからね。だけど、それだけじゃない。今や、彼女は難病患者でありながらフィールドワーカーであり、言論強者として言論弱者の代弁をするという使命感すら持つに至っています。難病患者の私にだからこそ、話してくれることがあり、話してくれる人がいる、と言うのです。頑張りすぎて、大丈夫かね?と少々心配になるくらい。
そう、彼女はフィールドワークの人なのです。百冊の本を読んで、調べて、調べて現地にいくと、たった一人の人間と出会っただけで、その全てが崩れ去る。でも、そしたらまた、百冊読んで、調べて、調べて、足を運ぶしかない。そして、自分の足で歩き、目で見て、耳で聞いて、考える。そうやって、やっと、本当のことがわかってくるのです。
ああ、私は本当に、言いたい。文献だけ調べて、活字だけで物事がわかったような気になって、自分は安全な場所にいながら、困っているひとのことを理屈で断じる人に、言いたい。大野更紗を見よ!彼女に見習え!と。
この本は、幾つもの対談があり、書評があり、また、彼女の非常にネガティブな部分も表されています。体の苦痛に、死んだら楽になるだろうかという誘惑もすぐそこにある、と率直にかいてあって、胸にずしんと来るのです。元気で前向きなさらささんだって、そう思っているんだ、と改めて気が付かされるのです。
冒頭の糸井重里との対談が、いい。いろんなことをかいているけど、結局、生活が大事なんだよ、日常をいかに楽しんで好奇心を持って過ごすかなんだよ、というところにすごく共感します。天下国家を論じたり、名声を得ること、巨万の富を得ること、偉そうなことを言うことよりも、日々の生活を大事に着実に前を向いて過ごすことが大事だ、と私も思います。それができるのが、一番、大事。
大野更紗は、じつによく勉強しています。この本は、もっと時間を書けて、じっくり読んだほうがいいのかもしれません。大事なことがいっぱい詰まっている。結構難しいこともたくさん書いてある。でも、みんな、ぜひ読んでほしい、と心から思いました。
2014/2/13