すゞしろ日記 (初巻・弐・参)

すゞしろ日記 (初巻・弐・参)

116 山口晃 羽鳥書店

一冊目はただの「すゞしろ日記」なのだけれど、三冊だと示すために「初巻」と入れました。すまぬ。

「ヒゲのガハクごはん帖」があまりに面白かったので、その中で触れられていたこのシリーズを入手。これが素晴らしくおもしろく、読みでもあって、長いこと楽しんでしまった。まだ四巻もあるのだが、手に入ってない。楽しみでならぬ。

画家、美術家にして漫画も描く(これがまた傑作!)山口晃氏。「すゞしろ日記」は東京大学出版会PR誌『UP』の連載を中心に、様々な媒体に発表した、日常生活や思うところを描いた細かいコマ割り漫画を集めた本である。とてもとても細かく描きこまれているうえに、活字なしですべて書き文字である。実に味わいが深い。月に一度の連載を集めてそれなりの厚みの本にしているので、一冊刊行するのに四年以上かかる。第一巻で三十代だった作者も第三巻では五十近い。だが、基本の人間性はがまったく変わっていないところが、また、いい。

時代を代表する一流の画家だけあって画力は素晴らしいうえに、そこここにあふれるユーモアがよい。文章もさることながら、絵でこれだけ笑わせてくれるってすごい。読んでいて数ページに一度は噴き出していた私。排せつ物や女性の下着の話だってあるが、少しも下品ではない。上品で温かく、そして知性に裏打ちされた笑いが楽しい。

子ども時代から根底が変わっていない人だ。目をつぶって歩いたらどうなるだろう、と思ってやってみたらぶつかった、転んだ、なんて話は私も身に覚えがある。そのまんま大人になっちゃったので、妻が出張中は「おるすばんのお約束」なんて冊子を渡される。朝はできるだけ早起きしましょう、ご飯はなるべくちゃんと食べましょう、みたいなことが書いてあるというが、妻の気持ちもわかるなー。38歳児、42歳児、なんて表記もあるが、それくらい少年じみた心根がうかがえる。そしてこの人、気持ちがまっすぐで誠実だ。

ラジオリスナーだというのにもラジオ好きの私は共感する。伊集院光のことを褒めていたが、私が伊集院をよいと思うのと全く同じポイントを書いてあったのでうれしかった。良心や、まともさや、ウソのないまっすぐさがよいのだ。妻のことをいじり倒しているが、その背後にあふれる愛情が感じられるのも、またとても良い。平和主義者であるところも素晴らしい。ご両親が彼としっかり向き合って育ててくれた、という話もすごくよくわかる。だからこの人間性が培われたのだろう。

子ども時代から、シャープペンシルの芯を削って、細かい細かい絵を描きこんでいたというのが面白い。ほんとにどこまでも丁寧に細かく描きこむ人だ。じっと見ていると、いろんな仕掛けがあちこちにあって、何度眺めても新しい発見があるような絵だ。この人、天才じゃなかろうか。

まだ四巻が待っている。小林秀雄賞を受賞したという(知らなかった!)本も予約した。読むぞ!こんな面白い人を、なんで今まで読んでなかったのだろう。宝を掘り当てた気分だ。