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「そらいろのたね」 なかがわりえこ文 おおむらゆりこ絵 福音館書店
言わずと知れた名作です。これ、大好きです。本当は、読み聞かせに使いたいといつも思っていました。でも、小学校の読み聞かせ活動は、たいてい、五月の下旬からスタートします。何人かで当番を回すので、私に番が回ってくる頃は、たいてい、夏か秋か冬か。この絵本には、タンポポやチューリップが登場するので、夏や秋や冬に読むのは、やっぱりちょっと躊躇するのです。
と思っていたら、なんと今回は六月のはじめに当番が回って来ました。初夏とはいえ、まだ、たんぽぽもチューリップも、探せばどっかで咲いていても不思議はありません。チャンスです!テーマは雨だけど、雨の本だけじゃなくたって構わない。というわけで、ついに、やっと、この本を読み聞かせに使うことができそうです。
我が家の「そらいろのたね」の絵本の後ろ見返しには、大きな字で、息子のフルネームが書いてあります。これには、懐かしい思い出があります。
息子が一年生の時、みんな、自分の一番好きな本を教室に持ち寄って、学級文庫にしましょう、と担任の先生が言いました。自分の好きな本を、みんなにも読んでもらうのって、ステキでしょう?と。
息子は、その当時、「そらいろのたね」が一番好きだったのです。彼は、この絵本をランドセルにいれながら、思いつめた声で言いました。
「お母さん、この本、学校に持って行ったら、なくされないかな。汚されないかな。誰かに取られないかな。」
息子は、とても心配性でした。そして、とても真面目でもありました。
「大丈夫よ、先生がちゃんとしてくれるから。でも、心配なら、他の本にしたら?」
「でも、先生は、一番好きな本、って言ったの。この本が、一番好きだから、これじゃなくちゃいけないんだ。」
あんまり不安そうなので、誰にでも絶対に息子の本だとわかるように、黒いマジックで、でかでかと息子のフルネームを書いてやりました。これで安心ね、と私は言ったのですが、息子はまだ不安らしく、翌朝は泣きそうな顔で登校して行きました。
結局、どうなったかというと、耐え切れなくなった息子は、担任の先生に、どうしても心配だから、持って帰らせて、と直訴して、二日後には本を持ち帰って来ました。やれやれ。でも、そのおかげで、古い本なのに、どこも痛まずに、読み聞かせに耐えるぐらいの状態で、今も残っているのです。
下の娘も、この本が好きでした。彼女が、種を植えて、植物を育てることに熱中したのは、もしかしたら、この本のおかげかもしれません。彼女が小学生の頃、朝顔がベランダ中に咲き乱れていたのは、もしかしたらどれかが家になるかもしれないと思って、やたらめったらたくさん種を撒いた結果なのかもしれません。
最後に、びっくり仰天して、狐がのびてしまうのは少しかわいそうだけど、だからこそ、このおはなしが、夢のようなお話のままでいられるのかもしれません。狐だって、目を覚ましたら、少し恥ずかしそうに、でも、いつもどおりにおうちに帰ってご飯を食べただろうな、と私には思えるのです。
2012/5/30