はくしむるち

はくしむるち

131 豊永浩平 講談社

沖縄が好きだ。もう十回以上、行っていると思う。海も空も風も食べ物もそこにいる人や生き物もみんな好きだ。‥‥なんて能天気なことを言う自分が恥ずかしい。本書は三島由紀夫賞受賞作。作者はなんと私の子どもたちよりも若い、大学を出たばかりの小説家だ。

冒頭部分、中村という人物が登場する。中村という姓について、まずさらりと語られる。最初は平仮名から始まった「中むら」という姓は琉球王である中山王の名に含まれることから「中」の文字が一律禁止される。さらに「大和メキタル名字ノ禁止」という薩摩の指針によって異国風に解明させられ「仲村渠(なかんだかり)」一族となる。戦後、さらに翻って今度は本州の呼び名に合わせるため日本風に呼び変えられ、かつて禁止された文字を当てて「中村」となる。この部分を読んだだけで気がつく。好きだ大好きだなどと言っているくせに、沖縄について、私は何も知らない。

上記エピソードは本筋ではないのだが、実のところは大きなテーマを含んでいる。力の強いものが人を翻弄し、本人の意思と関係なく、捻じ曲げ、踏みにじり、その在り方を変えさせ続けている。それは長い歴史だ。今も続いているし、それに気づきすらしない人たちがいる。沖縄に通い続けても何も知らなかった私のように。

物語は、時系列が現在過去を飛び交い、「お前」という誰やらわかりにくい人称が主人公となり、正直言って読みにくい。しかも、暴力と理不尽があふれていて苦しい。ずいぶん前に読み始めたが、途中、しんどくなっては宮田珠己さんやらアズキやらに逃げ込み、英気を養ってまた戻って読み進めた。根性なしの私。だが、あきらめずに読み切ってよかった。

沖縄に生きる若い女性たちの苦しみをレポートした「海をあげる「裸足で逃げる」を思い出した。虐げられるものは、もっと弱いものを虐げる。その構造がこの物語の中にもある。それでも、そこに怒りや疑問を持ち、どうにか変わろうとする人間もいる。新しい世界を求める人もいる。悪人とされる誰かを、あるいはその集団を糾弾したり憎んだりしても、問題は変わらない。そこにあるのは長い間の歴史であり、強者が弱者を虐げる社会そのものだ。

平和憲法を変えたり、軍備拡張を望んだり、徴兵制があればいいなどと考える人は沖縄の歴史をきちんと学ぶべきだ。戦争がどんなものか、軍隊が何を守るものなのか、本当のことを知ったらとてもそんなことは言えなくなるはずだ。別にこれは平和の啓蒙小説ではないのだけれど。それでも、知らなかったことを確かに気がつかせてくれる。その中で生きるとはどういうことかを考えずにはいられなくなる。

頑張って読んでよかった。若い作者が、これからどんなものを書いていくのか、楽しみにしていよう。