へたも絵のうち展覧会 熊谷守一ものがたり

へたも絵のうち展覧会 熊谷守一ものがたり

71 茨城県近代美術館 求龍堂

2002年、茨城県近代美術館主催、NHK水戸放送局共催で行われた熊谷守一の展覧会の図録である。

茨城県近代美術館の学芸員である小泉淳一氏が、熊谷守一の人生を変えた三つの死について最初に文章を寄せている。初期のころに描いた轢死体との遭遇、三歳で亡くなった次男、陽の死、勤労動員の無理がたたって若くして亡くなった長女の萬の死について。熊谷は、生涯に何度か、絵を描くことから離れて別の仕事をしたり、時計の修理や円周率の計算などといったことに熱中する時期があったが、これらの死との出会いによって、また絵に立ち戻ってきたのだという。

その後は、図録である。初期の作品と後期の作品の違いに驚かされる。線も色遣いもどんどん単純化され、素朴になって行く。と同時に、彼にしか描けないスタイルが完成されていき、最後にはとてつもなくシンプルになった。のびのびとした書もまた、味わいがある。

詳しい年譜も最後に載っている。特別なことを嫌い、普通のものを描こうとした彼の態度が人生から伝わってくる。彼の作ったおもちゃ10体の写真は、何とも温かい。器用な人だったのだろう。