めざせ!ムショラン三ツ星

めざせ!ムショラン三ツ星

100 黒柳桂子 朝日新聞出版

副題は「刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります」である。

刑務所の食事は受刑者が作っている。調理を教えるのは栄養士。刑務所にも、拘置所にも、少年院にも栄養士はいる。その多くは非常勤であり、この本の作者のように法務省の専門職である「法務技官」(国家公務員)の管理栄養士は全国に20名ほどしかいない。(イリオモテヤマネコより少ない、と作者はいう。)

刑務所で受刑者が食べる給食は、彼ら自身が作っている。管理栄養士は、毎月のメニューを考え、週に1~2回は受刑者と共に炊場(すいじょう・・炊事工場)に立ち、彼らに調理指導を行っている。最初はそれを怖いと思った作者だが、彼らは実際はごく普通の男子たちだった。彼らの「うまかったっす」に励まされ、同じ釜の飯を食った仲間となり、料理を教える先生と生徒となり、ある時は調子に乗った言動に説教する母親と息子といった場面をいくつも過ごしてきた作者である。彼らと目指しているのはミシュランならぬムショラン三ツ星。税金で贅沢させるな、受刑者なんてクサい飯を食わせておけ、という世間の声もあるが、「うまい=贅沢」ではない。食事という、刑務所生活で最大の愉しみを飼料のように毎日同じものにしてしまったら、本当の意味での更生につながるだろうか、と作者はいう。

もちろん、厳しい管理下にあるからかもしれないが、調理に携わる受刑者たちは、まじめで、真摯で、味に対して正直で、そして時に子どもっぽくさえある。そして、彼らのために、限られた予算の中で、できるだけ美味しいものを作りたいと作者も実に奮闘している。美味しいものを食べさせたい、という気持ちは人を温めるはずだ。それが無駄になるとは思えない。ドーナツのために、年越しそばのために、作者は自宅で何とも試作を繰り返し、努力する。受刑者たちもそれを知っているからこそ頑張って調理する。

本書にはいくつかのレシピも載っている。決して贅沢ではない、安価な材料で少しでもおいしいものを、という姿勢が見て取れるレシピである。学校で管理士をやっていた時に、不登校の子も、このメニューの時だけは登校したという「いかフライレモン風味」や、刑務所で少しでも大きく腹持ちの良いおやつを、と工夫された「獄旨ドーナツ」など。愛だなあ、と思う。

刑務所を出た受刑者に「メシ、うまかったっす」と言われても「また食べにおいで」とは言えない。彼らが今どうしているかも、知ることはできない。だから、この本は彼らへの手紙であるという。刑務所内部のことを外部に公表することには様々な問題があり、この本も批判を受け、頓挫しかけたという。それでも何とか出版できた。賛否両論あるとは思うが、最終的に書いてよかったと思いたい、と作者は結んでいる。