72 岸田奈美 ライツ社
どこで見つけたんだっけか、この人。おばあちゃんが認知症で、おかあさんが車いすで、おとうさんはとっくに亡くなっていて、弟がダウン症で、その中で何とか頑張ってやってる話をどこかで読んで、状況だけ知ったらものすごく大変そうなんだけど、そして実際にとてつもなく大変なんだけど、でも明るくて、笑っていて、前向きで、頑張っていて。もうあかんわ、って思う状況なら私も知っている。ってか、誰だって知ってるんだと思う。だから他人ごとじゃない。そんな中でどうしたらいいのか。この人は、独自の見解を述べる。
かのチャップリンは、「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」と言った。
わたしことナミップリンは、「人生は、一人で抱え込めば悲劇だが、人に語って笑わせれば喜劇だ」と言いたい。
みんなも心当たりがあるだろう。悲劇は、他人ごとなら抜群におもしろい。
ユーモアがあれば、人間は絶望の底に落っこちない。
(「もうあかんわ日記」岸田奈美より)
すごく大変なことも、あとから思い出すと笑い話になる。私もそれは知っている。この人も、それを求めているのだ。読んでくれる人がいるだけで語る意味ができ、悲劇を書けば書くほど喜劇になる。もうあかんと思うからこそ、あかんくなる前に必死に書き続けられた日記。だからこそ、笑えるし、泣けるし、胸を打つ。頑張れと思うし、私も頑張ろうと思える。
うちの子どもたちとそう変わらん年齢のこの人が抱えたたくさんの悲劇を、それでも笑いのめし、明るく乗り越え続けている記録。それがこんなおばちゃんである私に勇気をくれる。そのことに、私は感動する。
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