124 朝倉かすみ 文芸春秋
「平場の月」の朝倉かすみ。「けんぐゎい」で直木賞を受賞したが、それは図書館の予約が多すぎて、まだ読んでいない。157番目の順番待ちであった。
この「よむよむかたる」は後期高齢者が集う読書会の話である。読書会の名前は「坂の途中で本を読む会」。場所を提供していた喫茶シトロンの女性オーナーが結婚のためその地を離れることになり、甥っ子が後を引き受けるためにやってくる。28歳の甥はやっくんと呼ばれ、喫茶店を切り盛りし、読書会にも名誉顧問兼書記として参加するようになる。彼は、一冊だけ小説を出したことがあり、今は書けない小説家でもあるのだ。
コロナ禍が終わり、久しぶりに始まった読書会の課題図書は「だれも知らない小さな国」。課題本を参加者が一人二ページ見当で朗読し、その後、「読み」と中身について感想を述べあう。読書会の会長は88歳の元アナウンサーなので読み方も堂に入っているし、ほかの会員も決して棒読みではない。やっくんは感心する。読み方への感想が主流を占め、内容への意見はあまり出ないが、いずれにしても話題は、ずれを見せ、広がり、思い出話や雑談へ変容していく。だがそれは、会員たちの人生を垣間見ることにもなり、それぞれの人柄が立ち上がっても来る。この本「よむよむかたる」一冊が終わるまでに彼らは「だれも知らない小さな国」を読み通す。それを通して語られる別の様々なエピソードが新しい物語を作り出す。
こういう読書会もいいなあ。というより、こういう読書会でいいのだな、と思う。私も参加しているシェア型書店では、棚主による読書会が時として開かれる。この本ほどではないが、やはりそこでも自由な会話が交わされ、本を超えて様々な人生に触れることができる。本をきっかけにして、それぞれの人が思い出したり考え出したりした新しい世界を少しずつ見せ合えるような経験ができる。読書という個人的な体験を共有するとはこういうことかもしれない。
この本の中で、今は書けなくなってしまった小説家やっくんに、新しい道や思いがけない展開が開けていく。それは読書会の会員一人一人とも密接にかかわるストーリーだ。行きつ戻りつしながら物語は進む。何しろ、後期高齢者の集まりだからね。時に忘れたりよくわからなくなることもある。
小樽という町の小さな喫茶店で、私も読書会に参加したような気持ちがした。本を一緒に読んで語り合うのって、本当に良い時間だ。私ももっとそんな経験を積みたい。
