130 内藤健 東京書籍
夫からのおすすめ本。アズキは大陸から流れてきたわけではなく、縄文時代の日本に起源をもっていた。それを、遺伝子を丁寧に分析、読み解くことで解き明かしたのがこの本の作者、内藤健氏である。科学本は小難しいとついていけなくなることが多いのだが、内藤氏は文体が関西弁チックで、時に躓きそうになりつつも、最後まで読み通すことができた。わかりやすく、楽しく、面白く伝えたいという作者の熱意が文体に現れていて、それに励まされた。
この本は、作者が京都大学の白眉プロジェクトに不採用となったところから話が始まる。その時のライバルがバッタを倒しに行った前野ウルド浩太郎氏や、鳥の言葉がわかる鈴木俊貴氏だったというから、そりゃレベルが高いことこの上ない。だが、それが不採用だったおかげで作者はつくば市の農業生物資源研究所の「アズキの遺伝学研究」公募に採用されたのである。それまでアメリカのジョージア大学でイネのゲノム研究を行い、大きな業績を上げていた彼は、アズキを踏み台にして業績を稼いで関西にポストを得よう、程度の気持ちで赴任したのだが、そこからアズキの研究の面白さに取りつかれることになる。おかげで関西在住の彼女と結婚、同居しようという予定はちゃらになり、籍は入れたが未だに別居婚である‥‥ってそれは本書の本筋ではないが(笑)。
アズキは、中国が起源で弥生時代に日本に持ち込まれたという説と、日本が起源ではないか、という説が有力であったが、作者はゲノム解析を駆使して日本起源説を証明する。こういった研究は、ただ遺伝子を読み解くだけでは形にならない。丁寧な実験や論理的な思考の積み重ねはもちろんのこと、例えば考古学との交流、融合や台湾の研究者との協力なども必要であった。
この研究は、ある意味、一つの物語を構築していくのに似ていたのかもしれない。遠い昔の人々がどのように生活し、食料を得たのか。安定的な収穫を得るためにどのようなことが行われたのか、また結果的にどのような選別が行われ、あるいは起きたのか。長い長い歴史的を想像し、様々な場面を想定し、いくつもの可能性を探りながら、より正しい道を探っていく。その果てに、日本には縄文時代からアズキが存在し、人々がそれを栄養源とし味わってきたことが明らかになったのだ。
学問が続けにくい世の中になっている。学問を軽視し、金を稼げる研究しか認めないような国に成り下がってしまっている。でも、純粋に、研究って面白い、真理を追究するって楽しい、ということをこの本は教えてくれる。そして、そういうことが、たとえすぐに利益や儲けにつながらなくても、実はとても大事な、豊かな財産を作り上げているのだということにも気づかせてくれる。
この本を読んで、研究者になってみたいと思う若い世代の人がいるといいなあ。ちなみに、本書は第42回講談社科学出版賞受賞作品である。
