イン・ザ・メガチャーチ

イン・ザ・メガチャーチ

60 朝井リョウ 日本経済新聞社

KMGW BOOKSでひと棚本屋をやっている。たまに棚主を中心に読書会が開かれる。五月の会の課題図書がこの本である。

2026年本屋大賞受賞。いずれ読むとは思っていたが、人気の本は図書館での順番がなかなか回ってこない。だから来年くらいに読むかと思っていた。でも、課題図書なので頑張って購入。読み始めたら数日で読めた。といっても、結構ハードで、途中に休憩が必要だった。何がハードだったかというと、私のようなおばちゃんには刺激の強い話だったんである(笑)。

音楽業界で洋楽をけん引していたつもりがいつの間にか取り残された中年男と、世の中に居場所がないと感じながら一人の舞台俳優を推していた女性と、意識の高い友人との関係性に疲れている時に、とあるアイドルグループに出会ってそれを強烈に推すことで生きる喜びを見出した少女。

推し活マーケティングに物語性を取り込み、熱狂を呼び込む仕事に取り組む中年男。推していた俳優の自殺を機に、陰謀論に取り込まれていく女性。留学や、社会への高い意識性からドロップアウトして、一人のアイドルを頂点に押し上げるために、どんなことでもやり続ける少女。自分の世界は孤独とやりきれなさにあふれていたけれど、それに熱中することで、光が取り戻せる、誰かと繋がれる、自分を信じられる。そんな感覚を彼らは手にしていく。だけど、それは本質から外れたものではないのか?そもそも、この世に正解なんてものはあるのか?

ナチスの広報担当、ゲーリングの言葉が登場したのには驚いた。
「戦争を起こすことはそれほど難しくはない。国民に対し、我々は攻撃されかけているのだと危機感を煽り、平和主義者は愛国心が欠けていると非難すればいい」
「この国の存続が危ない。近々攻撃される可能性が高い。そんな危機感は強烈な自衛意識を生み、人々にこれまでの判断基準を更新させる。」

応援しているグループが、動画の再生回数、高評価数、発売売り上げやランキング順位などで別のグループのファンダムに攻撃されて負けてしまうかもしれない、この成績のままではこのグループの存続が危ういかもしれないという情報をファンに与える。それによって彼らの自衛意識は掻き立てられ、熱狂し、あらゆる方法で、金と熱意と手間と時間をつぎ込んでくる。そんなファンダム戦略が進められ、驚くほどそれに人々は乗っかっていく。

これって。今の社会や政治も同じだ。自分が本当に良いと思うもの、本当に幸せだと思うものは何なのかを探していたつもりなのに、それを見つけたはずなのに、誰かと繋がり、あるいは誰かに認められ、周囲に巻き込まれることでいつの間にか本質から遠ざかっていく。もしかしたら、誰かの戦略に乗せられて、まんまと流されているだけなのかもしれない。だけど、じゃあ、本質って、何?幸せって、何?私の好きなもの、大事なものって何?正解は、誰も教えてくれないし、ひとつでもない。

そんなことを、朝井リョウは、ある種の辛辣さをもって描き出している。視野なんて狭い方がいい、視野が広ければ広いほど自分から遠ざかってしまう、と言いもする。読み終えても答えは出ないし、すっきりもしない。ただ、自分とは、自由とは、ほんとうに大事なものとは、という問題を前に呆然とさせられるような物語。