131 佐々涼子 集英社
第十回開高健ノンフィクション賞受賞作。作者の佐々涼子氏は、今年の九月に悪性脳腫瘍のため自宅で亡くなられた。病気のことは「夜明けを待つ」で知ってはいたが、亡くなったときは本当に悲しかった。
「エンジェルフライト」は、先にドラマを見た。米倉涼子が熱演だった。本を読んだら、なぜ米倉涼子だったのか、わかる気がした。ドラマではテレビに映せる範囲でしか描けないが、本はもっとリアルで生々しいものであった。
海外で亡くなった邦人を日本に移送したり、国内で亡くなった外国人を母国へ送る。遺体を、腐敗や損傷から守り、できるだけ生前に近い姿で遺族のもとに届ける。それが、国際霊柩送還士の仕事である。最初は、もう亡くなってしまっているのに、なんでそんなことが仕事になるんだ?と思いもしたのだが、読んでいくとその重要性が見えてくる。誰かの死は、身内や親しかった人にとって、遺体との十分なお別れなしには受け入れ難いものなのだ。とりわけ日本人は、遺体を大事にするという。私も、大事な人がもし何かがあったら、その体を抱きしめ、言葉をかけずにはいられないと思う。想像したくないことではあるが。その人の魂がもうそこにはないと知っていてもなお、その体に語りかけずにはいられないと思う。であるのなら、その遺体は腐敗したり、損傷していてはいけない。だから、彼らは全身全霊を込めて遺体を運び、きれいにして、遺族へと送り届ける。
葬儀に関わる仕事は、かつて蔑まれたことすらあるという。葬儀屋であることを理由に結婚話が破談になった話も登場する。だが、人の最期を丁寧に大事に遺族とともに送り、見届ける仕事は尊い。つくづくとそう思う。
海外に行くことの増えた私たち夫婦である。我々の骨はベネチアの海に散骨してもらおうか、などと今日も戯言を言い合った。となると、生き残ったどちらかはもう一度ベネチアへ行けるんだね、なんて笑い合っていたけれど。旅の途中で何かあってしまったとき、私たちも彼らの手を借りねばならないことだってあるのだなあ、と冗談ではなく、本気で思いながら読み終えたのであった。
佐々涼子さんのご冥福を心からお祈りいたします。良いノンフィクションの書き手だったと心から敬意を表します。