55 佐々涼子 集英社インターナショナル
「夜明けを待つ」の佐々涼子である。あの本も夫からのおすすめ本であったが、これもまた同じ。夫がしみじみと読んで、回してくれた。
訪問診療を行う診療所とそこで働く訪問看護師の話。在宅医療を受けている末期がん患者の、海に行きたいという願いを皆で支えるエピソードから始まる。かなりひどい体調でありながらも、子どもと潮干狩りに行きたいという患者の強い強い意思がそれを実現させる。医療とは何か、生きるとはどういうことか、考えずにはいられない展開である。
訪問看護の核となる行動力のある看護士が、自身が末期がんであるという事実に出会う。「将来、看護師になる学生たちに患者の視点からも在宅医療を語りたい、そういう教科書を作りたい。」彼はそう言って佐々に共同執筆を持ちかける。だが、執筆は遅々として進まない。提案者である看護師自身が訪問看護について具体的に語りだすことはなく、患者でありながら訪問看護をし続ける現場にただただ佐々は同行し続ける。患者が怖がることなく苦しむことなく死を受け入れるために尽力し続けてきた彼が、自分のがんについては、がんであることを十分に受け入れれば治る、と信じ、ホリスティックな医療に傾倒していく。その経過においてもまた、様々な患者の最期に立ち合い続ける。
死は誰にでも訪れる。山田風太郎が「人間の死亡率は100%である」と「人間臨終図鑑」で書いているのを読んで、あっと思った覚えがあるが、至極当たり前のことでもあった。いつか必ず自分にも訪れるその時のことをもっときちんと考え、向き合ってもいいのではないかとこの本を読んでつくづく思う。
「できれば在宅がいいけれど、無理はしないでもいい」と夫はいう。私と夫、どちらが先になるかはわからないが、私もそう思う。できれば在宅がいい。この本を読んで改めて思う。苦しいのも痛いのも嫌だ。体中に管をぶら下げていたずらに時を伸ばすのも嫌だ。やりたいことをやり、会いたい人に会い、大好きな人のそばで死にたい。
しんとした気持ちになった。今を大切に生きよう、と心から思った。私たちの年代の人間は、一度読むといいかもしれないね。本当に大切なものは何なのか、もう一度考えることができるきっかけになるかもしれないから。