オーロラが見られなくても

オーロラが見られなくても

94 近藤史恵 角川書店

「ホテル・ピーベリー」以来の近藤史恵。旅の物語が多い作家である。今回は、アムステルダム、ジブラルタル、アイスランド、ハルビンへの旅の短編が収められている。

ジブラルタルへは二回も行っているので、なじみ深い場所だ。そこから船で渡ったモロッコも登場したので、さらに楽しい。アフリカとスペインは、海から対岸が見える。二つの大陸は、びっくりするほど近い。行ってみるとしみじみ実感する。飛行場を歩いて突っ切って、スペインのラ・リネアからジブラルタルへ国境越えするのも、そこでしか体験できないことだ。だから旅は面白い。

アムステルダムとアイスランドは行ってみたいと思っている場所なので、実に興味深かった。アムステルダムにコロッケの自動販売機があるなんて知らなかったし、アイスランドに世界一おいしいホットドッグがあるのも知らなかった。旅は、いつだって食べ物の思い出とセットになる。そこでしか食べられないものの話は心をくすぐる。

とはいえ、この本は旅のガイドブックではない。傷心の、もうそれほど若くもない女性が旅の中で徐々に心を回復させる物語である。そんなに旅慣れてもいないけれど、おっかなびっくりその土地を歩いている内に、だんだんそこが好きになってくる、そうしてそんな自分を許せるようになってくる話である。

旅には、そういう効果がある。日常から離れて、全く知らない場所で、頼れる人もいなくて、言葉もおぼつかなくて、でも、だからこそ風景の美しさも、食べ物のおいしさも、触れ合う人の優しさも、身に染みてありがたく、うれしい。そして、また元の場所に戻って、生きていこうと思えるようになる。

私が旅を好きな理由を改めて確認できる短編集であった。