カフネ

カフネ

92 阿部 暁子 講談社

2025年本屋大賞受賞。「パラ・スター」の作者だ。久しぶりに出会ったと思ったら、こんなに大きくなって。おばちゃん、うれしいよ(笑)。

電子本で読んだ。紙の本だと感想を書くときにパラパラめくって読みかえせるんだが、電子本だとどうしたらいいかわからない昭和生まれの私。だから、記憶だけで書く。

最愛の弟が急死した主人公、薫子は弟の婚約者だったせつなと連絡を取る。婚約は解消されていたのだが、弟の遺書には彼女への財産分与が記載されていた。だが、せつなは受け取りを拒否する。憤る薫子。疲労がたたった彼女は倒れてしまい、せつなに助けられる。そこから、せつなの関わっている家事代行サービス会社「カフネ」の仕事を手伝うようになり、様々な人と出会う。その中で、弟や両親のことも次第に理解し、自分の離婚や不妊治療の問題も振り返っていく‥‥。

せつなという女性は強くて不愛想で、でも実は繊細。とてもおいしい料理を短時間でたくさんつくることができて、それが仕事の依頼者を救い出す。彼女のキャラクターは実に魅力的だ。亡くなった弟は完璧なように見えて、実は本当の自分を生きていなかった。そこには両親との関係性もあった。薫子は自分を見直しながら弟の関係性に気づいていく。

美味しい料理と家事、育児の重圧、親からの期待と抑圧、周囲との関係性、性的マイノリティの問題から児童虐待まで、盛りだくさんの小説である。最近の小説は料理と親がポイントだなあ。確かにそのふたつは今を生きる女性の心をぎゅっとつかむテーマではある。

親との関係。愛情って何なんだろう、と薫子が考えるシーンがある。親の期待に応えること、願い通りに生きること、それ以外の選択をすると失望されること。でも、親は老い、衰え、そして子を頼りにしている。親を助けられるのは私だけだ、という薫子の気持ちもわかる。リアルにわかる。

親は結局私には興味なんてなかったんだ、とふと気が付いたことがある。親がすっかり年老いてからのことだ。結局のところ、親は子を思い通りにしたかっただけで、子がどんな気持ちでいるのか、何を望んでいるのかなんて全く興味もなかったんだな、と突然わかってしまった。愛されていなかったのか。でも、大事にしてもらった、育ててもらった、学校も出してもらった。それは愛じゃなかったとはやっぱり思えない。だから、二人が亡くなるまで、できる限りのことはした。後悔はない。ただ、この小説の中で薫子が愛情って何なんだろうとふと考えこむ、それが手に取るようにわかってしまう。

人はいつか死ぬ。だから大丈夫、とせつなは言う。死は誰にでも等しく訪れる。だからこそ、それまでをしっかり生きるしかない。