43 原泰久 集英社
さて、ついに旅のお供本が切れてしまった。仕方ないので、スマホに死蔵してあった電子書籍をチェックする。おお、あった、あった。64巻までしか読んでいない「キングダム」が70巻まであったぞ。というわけで、ミラノに向かう電車の中で、キングダムを読む。
私は電子本がどうも苦手で、というのも老眼であんなちっちゃなスマホの画面を見るのが苦痛なんですな。時々スワイプしないと吹き出しの文字が読めなかったりするし。ただ、今回気が付いたのは、紙の本はとにかく重いので長旅に向かないということ。「ハンチバック」以来、やっぱ本は紙じゃなくちゃねー、とお言い放つのもある意味傲慢なことであると知ったし。
「キングダム」を読むにはちょっとハードルを越える必要がある。好きなんだけどね、この漫画。ただ、ぽんぽん、ぽんぽん人が死んでいく、それもすごく残虐な状態で殺されていく絵があふれているので、少し心を薄ーくするというか、片目をつぶるというか、必要以上に想像力を使わないようにしないと、夜、変な夢を見る。どうも私はこういうの弱いのよ。それで、人が死なないミステリを好んだりするんだな。
「卵をめぐる祖父の戦争」に、ドイツ軍が作った慰安婦収容所が登場した。そこから逃げ出そうとした少女が、足首から先を斧で叩き落とされ、手も切り落とされ、雪の中に放置される場面があった。あまりに残酷なシーンで、読んでいてしばらく息が止まりそうになったのだが(そこで私はこの「キングダム」を思い出したのだが)、久しぶりに「キングダム」を読んでみると、手足を切り落とされた死体なんて山ほど出てくる。画面のあちこちにあふれている。ひとつひとつ感情をこめてみる暇も無いほどだ。たった一人、そんな目に遭った描写だけでもあんなにショックだったのに。
結局のところ、人間は、こういう残酷な所業を数えきれないほど繰り返してきたのだな、と思う。敵なんて平気でじゃんじゃん殺して、踏みにじって、一人一人に命があり歴史があり生活があるなんてことどうでもよいとばかりに殺しまくって、何とか生き残った人たちの末裔として私たちがいま生きているのだな、と思う。私がいまこうしてここにいるのは奇跡だよな、と思う。歴史を知るとはそういうことでもある。大量虐殺の果てに生きる私たち。そのことを忘れちゃいけないよな、とつくづく思う。
なんて頭のどこかで考えながらも、「キングダム」はやっぱり面白い。物語は展開し、思わぬラブストーリーも含まれていたりして。残虐だけど面白いこの漫画を、きっとこれからも私は読むのだろうなと思った。