コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか

コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか

30 旦部幸博 講談社ブルーバックス

夫が定年退職して再就職はせず、家に入った。(という言い方は正しいのか?)おかげで人生最大の趣味であるバックギャモンを大いに楽しみ、平日にも旅行に出られる。退屈が何より怖いというタイプの人なので、つまんながるんじゃないかと心配していたが、全然そんなことはなく、毎日楽しそうである。そして、私も楽しい。夫が引退した友だちのたいがいは「昼食を準備する負担」について怒りを込めて語っていたが、別に負担ということはなく、それよりも一人でご飯を食べずに済む利点のほうが大きかった。私にとってのメリットは、毎朝、散歩の連れがいることと、散歩後に淹れたてのコーヒーが飲めることである。そう、夫は毎朝、豆を挽いてコーヒーを入れてくれる。これはうれしい。習慣化してしまったので、旅先で朝コーヒーが飲めないと何とも口寂しくなってどこかで飲めないかと探し回るようになってしまった。

さて、この本は夫のお勧めである。医学博士にしてバイオ系研究者、がんにかかわる遺伝子研究や微生物の講義なども行っている人がコーヒーについて興味を持つとどうなるかよくわかる。コーヒー豆の構造から植物学的分類、ゲノム解析、生育の過程、コーヒーの歴史、抽出法やその効用に至るまであらゆる角度からみっちり調べ、解説している。遺伝子レベルの話はざっと読み流してしまったが、歴史は好きなので結構楽しく、抽出法は各種様々なやり方が工夫されてきたことが興味深い。しゃれた喫茶店で見かけるサイフォン式コーヒーがもはや日本独自のものとなっていることなんて全然知らなかった。だからどうってことはないのだが、毎朝飲むコーヒーをしみじみ眺め、ゆっくり味わう一要素になったことは間違いない。

どんなことでも、人は好きなことがあるととことん突き詰める。そして、本当に好きなものについて語っている人の話はたいてい面白い。ということをまた一つ証明する本であった。