ハテルマシキナーよみがえりの島・波照間ー

ハテルマシキナーよみがえりの島・波照間ー

52 桜井信夫 かど創房

「ここに物語が」で紹介されていた本。戦争中に陸軍中野学校で訓練された軍の特殊任務要員、山下が波照間島で島民を武器で脅し、家畜を殺させて保存食糧を作らせて軍に徴用し、島民をマラリアの蔓延する西表島に強制疎開させ、島民が次々にマラリアに倒れても自分の持っているマラリア特効薬は絶対に与えず、軍の人間だけはマラリアのない場所に避難し、島民に敵を竹やりで倒し最後は死ねと力づくで強要した歴史的事実を描いた叙事詩。小学校の識名校長が日本刀を振りかざす山下の前に素手で立ちはだかり島民を守り、波照間に戻った。が、その後もマラリアと食糧難で島民は大変な生活を強いられた。

疎開をためらう島民に向かった山下の言葉が恐ろしい。

つまり日本軍は島民を、国民を守ることなんて目的ではなかったのだ。軍隊は国民を守るためにあるのではなく、何か別のもの…国と呼ばれる、血の通った人間とは全く別の存在を守るためだけにあったことがよくわかる。軍隊は家族や大事な人をを守ってくれたりはしない。むしろ敵ですらある。ということが歴然とわかる話である。

戦争において島民の敵はアメリカ軍ではなく、日本軍だった。たぶん、沖縄でも、満州でも、そして戦争中の様々な地域でも同じようなことは起きていたはずだ。戦争というものや軍隊というものがどのように働くのか、私たちはここから学ぶしかない。丸腰で軍人の前に立ちはだかった校長の勇気を忘れてはいけない。