169 ルーマ・ゴッデン 偕成社
「シンデレラはどこへ行ったのか」に事例として載っていたのに読んだことがなかった児童文学。原題は「木曜日の子どもたち」である。児童文学なのかな、ものすごく読みごたえがあって、大人でも十分楽しめる物語。上下巻に分かれていて、時間はかかったけど、面白く読めた。
母親に溺愛されて、バレリーナになるために産まれてきた少女、クリスタル。その弟で、誰にも期待されていない少年、デューン。ところが、バレエはもとより、音楽にも才能にあふれていたのはデューンのほうであった。親や兄弟の無理解にもかかわらず、周囲の人々の支えによって才能を花開かせていくデューン。母の期待を背負わされ、弟への嫉妬に苦しむクリスタル。居場所のない二人の子どもたちの成長物語。
私は子ども時代、ほんの数年間だけバレエを習っていた。ピアノ、習字、英会話など様々な習い事をさせられたが、バレエだけは初めて自分で望んで始めたおけいこ事であった。子どもはトウシューズにあこがれるものだが、脚が十分に成長してからでないと履かせてもらえない。つま先を柔らかい皮で覆った平べったいバレエシューズで踊りながら、いつかトウシューズを履きたいと願っていた。やっとトウシューズの許可が下りて半年もたたず、我が家は東京から札幌に転勤になり、そして母は私に「バレエはもういいわね」と言った。転校先の同じクラスにバレエを習っている子がいて、いいなあと思ったのを覚えている。でも、私はバレエを続けたいと親に言えない子だった。
そんな話を、今頃、90歳になろうという母にした。「あなたがそんなにバレエが好きだったなんて知らなかったわ」「札幌にバレエを教えている場所なんてあったの?」と言われた。私は主張しない子であったし、母は気が付かない親であったのだ。まあ、私には才能なんてなかったから、続けたところでどうなったものでもないが。
親の無理解に苦しみながら、自分の道を見つけていく子供の物語。この齢になってグッときちゃうのは、子ども時代を思い出すからだろうか。姉のクリスタルは役柄としてはヒールの立場なのだが、作者は彼女の心情を丁寧に描いて、決して悪役にさせてはいない。彼女には彼女の苦しみがあり、成長がある。そして、子どもの心に鈍感な親たちすら、ささやかに成長し、変化を遂げていく姿が描かれる。
バレエをやめてしまったあのころの私がこれを読んだら何を思っただろうか。子どもの頃の私にもし会えたら「バレエ、続けたいって言ってみてごらん」「続けていいんだよ」と言ってあげたい気がする。