マオ

「マオ」上・下 ユン・チアン

基本的には、最近読んだ本を中心に書くつもりでいるのだけれど、「マオ」は昨年の秋頃に読んだ本だ。でも、ここ数年読んだ中で、一番衝撃を受けたし、これを読んで、人生観まで変わってしまったような気がするので、ここで紹介したいと思う。

同じ作者の書いた「ワイルド・スワン」は読んでいたけれど、これは、ものすごい本だった。図書館にリクエストして、半年かけてやっと順番が回ってきた。無理もない。読むのに時間もかかるし、そして、たくさんの人が読むべき本だと思うし。

毛沢東、というとどんなイメージだろう。
私は、なんとなく清廉潔白な哲学者風の政治家、と思っていた。うううう、とんでもない!なんと言う恐ろしい人間だったことか。なぜ、こんな人間が、中国のトップに立ち続けたのか、考えるだけで身の毛がよだつ。先日死刑判決を受けたあの教祖とほぼ同じタイプの人間だったことがよく分かった。

膨大な量の資料、インタビュー、徹底的な調査。そこから現れてくる、愕然とする、呆然とする事実。三ページ読むと100万人単位で人が死んでいくので、最初は重く、だんだんに怖くなり、最後は読みながら感覚が麻痺していくのを感じた。これは、フィクションではなく、本当にあった出来事である、と何度も自分に確認してしまった。

中国の膨大な人口を武器に、どれだけ死んでもまだ人間はいくらでも残っている、と考えていた毛沢東。国内が飢餓でばたばた死んでいくときに、海外に潤沢な食糧補助を与え続け、無意味な戦闘で人が大量に無駄死にしても、「死んでも構わない。孔子の時代から人は死んできた。死ななかったら、困るではないか。」と、笑った。

行軍の最中に自分の妻が産気づいても、一顧だにせず、出産すると、その辺の農家に預けていけ、といって、振り返りもしなかった。(何人かの子どもはそのまま死んだ。)わが子がクレムリンに人質状態になっても、それに全く惑わされなかった。(蒋介石は息子を人質に取られたがために最終的には台湾へ逃げることとなった。)

自分を支えてきた実力者を次々に粛清し、最後は誰も残らなかった。対外的に評判の高い周恩来を国内では、いじめつくし、最後は癌であることを知りながら、治療を禁止して、殺した。

文化大革命では、国民の九人に一人が残虐行為の犠牲者になったという。残虐行為を撮影させ、それを編集したものを見るのが彼の楽しみで、そのフィルムは、まだ残っているそうだ。

朝鮮戦争で、北朝鮮の成人男子の三分の一が死傷し、さすがに和平を望む金日成に対し、「北朝鮮は何も失っていない。ただ、国民が死んだだけではないか」と言い放った。「死ねば死ぬほど、残されたものは帝国主義を憎む。それはとても良いことだ」と笑ったという。

エピソードは数限りない。そして、彼が国民のこと、世界の平和や秩序のことなど何一つ顧みないで、ただひたすら、自分が支配者として世界に影響力を広げることだけを目指していたことが明らかになる。後継者など全く考えなかった彼は、自分が生きているうちに世界に支配者になることだけが目的で、死んでしまったら、誰が何をしようと、どうなろうと全く構わないと思っていた。彼の子どもは、皆、ひどい状況に置かれて顧みられていない。愛情とか、人間の尊厳とか、大いなるものへの謙虚さとか、そういったものが、彼からは微塵も感じられない。

ショッキングな本だ。そして、嘘は書いていないだろうと感じてしまう。共産主義っていったいなんだったんだろう、理想ってなんだろう、人の幸せってなんなんだろう、と考え込んでしまった本だった。

2007/2/1