ムーンライト・イン

ムーンライト・イン

100 中島京子 角川書店

信頼の中島京子。「小説 野生時代」に2019年12月から2020年11月まで連載されていた小説。一気に読んでしまった。

息子に認知症を疑われ、施設に入所させられそうなので逃げてきた80代女性。まだ見ぬ実の父に会いに来ながら決心がつかない20代、フィリピン出身の女性。思わぬ事件を起こして逃げてきた介護士の50代女性。仕事もなく行く当てのない20代男性。廃業したペンションを維持している独り身の80代男性。それぞれに事情を抱える五人が寄り集まった不思議な同居生活。

家族関係は難しい。言いたいことがうまく伝わらなかったり、分かり合えなかったり。遠い昔の夢が、人生の終わりごろにかないそうになっても、それは既に形を変えたものになっていたり。みんな切ない思いを抱えながら、でも、何とか生きている。自分と向き合うことは難しいけれど、やっぱり向き合わないともっとつらくなる。本当の気持ちを見据え、本当のことを言って、そうすれば、きっとどうにかなる。もどかしかったり不安だったりするけれど、なんだか前途は明るそうで、最後は心がほんのりあったかっくなる。

中島京子の小説はいいなあ。明日もまた頑張って生きていこうと思える物語だった。