メソポタミアのボート三人男

メソポタミアのボート三人男

114 高野秀行 集英社

新刊が出たら即買いの高野秀行の新作。2018年に八歳年上の山田高司氏と、現地の助っ人(?)レザンの三人で行ったティグリス=ユーフラテス源流部の川下りに、国内の「江戸ポタミア」の船旅、そしてトルコ領の川での気ままな船旅を描いた作品。相変わらず、人のやらないことをやり、それを面白おかしく書いている。

今回の旅の隊長、山田高司氏が素晴らしい。下手なオヤジギャグと様々な格言、そしてそれを裏打ちする深い教養。そして、相変わらず間違う力を思う存分発揮する高野氏。車の運転と機材運搬を請け負う、眉毛の濃いレザン氏は全くやる気を見せず、こいつら何がやりたいんだ…的な態度を崩さない。車だと数分で行ける場所に一日かけて汚い川をボートで下るなんて、何やってるんだ、こいつら…と地元の人たちにも不思議がられるばかりだ。

だが、そこにはさまざまな出会いがある。変なことやってる珍しい奴ら、のはずなのに、親切に食べ物を分けてくれたり、宿を提供してくれたり、いろんな話をしてくれる地元の人。そこにはクルド人問題がある。アレヴィーと呼ばれるイスラムの亜種の宗教を信じるクルド人もいれば、トルコ人もいるし、クルド人のスンニー派もいる。それぞれに排除したり偏見を持ったり、共生したりと複雑な関係性を持つ。だが、様々な人と関わり合う中で、クルド人の無償の親切心に彼らは助けられた。「困ってるみたいだから手伝おう」「自分の土地に来た人だからちょっとご馳走しよう」「友達の友達だから助けよう」という気持ちが主流で、時にちゃっかりした人や多少自分勝手な人がいても、それもご愛嬌の範囲であって、打算やずるさとは無縁だったという。

この感覚はすごくよくわかる。私もここ数年、実に頻繁に海外に行くが、どこに行っても人の親切に助けられる。時に、怪しいスリや詐欺師がいないわけではないが、たいていは無償の親切心を惜しみなく提供してくれる。私はこんなに人に親切だったことがあっただろうか、と何度反省したことか。高野氏も言っている。

移民を目の仇にし、まるで彼らを犯罪集団のように決めつけたがる一部の人がいるが、そういう人たちにこの本を読ませてやりたい。何なら、メソポタミアまで連れて行ってボートに乗せてやりたい。人は、変な人を見れば珍しがるし、ちょっとかかわってみたくなるし、そして、気がついたら仲良くなっていたりするものだ。そういう当たり前の好奇心と親切心と信頼感があるからこそ、人類はこうやって長いこと続いてきたんじゃないか。

それにしても若々しい大学生が謎の生物ムベンベを追ってアフリカまで行ったあの時から何年たったのだろう。高野さんもそろそろ還暦である。これからの旅はどうなるのかなあ。これからも力強く間違う力を発揮しつつ、人のいかないところで人のやらない、無駄なことをやり続けてほしい。期待している。