モナコ観光の巻
今回の旅の主目的は世界バックギャモン選手権であるが、基本的に私は傍観者である。ギャモンに人生を持っていかれちゃってる日本人参加者の皆さんの多くとは旧来からのお知り合いではあるが、自分の才能がギャモンには向いていないと自覚してからはゲームにはほぼ参加していない。ただ、夫が海外の大会に参加する場合、ダブルスにだけは出場する。あとは、下手でも勝てる可能性が若干高い1ポイントマッチに出ることもある。
夫は初日のモナコオープンに始まって、その敗者復活戦、シニア戦、選手権本戦、敗者復活戦、そして私と組んでのダブルスなどなど各種試合に参加していく。勝ち上ればその日は忙しく、夜遅くまで拘束されることになる。だが、負けてしまえばその日はもう、することがない。というわけで、その日は早々に暇になってしまった。仕方ないので、会場近くの日本庭園へ行くことにする。「モナコに日本庭園を作りたい」という故グレース王妃の想いを実現した庭園なんだそうだ。外気温は30℃を超えている。日本はもっと酷暑だったらしいが、本来避暑地であるはずのモナコとしてはかなりな暑さ。ひいひい言いながら歩いていく。
庭園に入る。外側に遮蔽幕のようなものが張られている。これは、工事中なのか?よくわからない。あまり趣のある庭園とは感じられない。池にコイが泳いでいたりはするが、日本風というべきなのか?何よりも暑すぎて、あまり丁寧に見る気持ちになれないこちら側にも問題が。
庭園を出て、ビーチのほうへ歩いていく。
道行く人は皆、下着なんだか水着なんだかわからない格好である。スタイルの良い若者だけではなく、中年、熟年のぼってり、たっぷりしたお肉の人たちもみなこぞって肩を出し、お腹を出し、胸をはみ出させ、短いスカートや短パンで堂々と歩いている。日本で痴漢などの被害にあうと「挑発的な格好をしていた側にも問題がある」なんて言う人がいるけど、どうよ。そんなこと言ったらモナコで袋叩きに合うよ。ここ歩いてる人、全員が挑発してることになっちゃう。
あんまり暑いので会場まで戻る。全身汗みずく。ロビーで涼んでいたら、マダムK主催の日本人夕食会、本日開催のおしらせ。マダム、ありがとうございます。というわけで、ぞろぞろと総勢15人くらいの日本人がイタリアンレストランに集結。モナコ在住の、長年フェアモントでコンシェルジュをやっていたという男性もマダムKのお誘いで参加。
元コンシェルジュさんによると、この暑さはやっぱり異常なんだそうだ。ここに永住を決めた理由の一つが気候の良さだったのですけれど、モンテカルロも変わりましたよ、と。マダムKによると、昔はトラックが走ってるのなんて見なかったし、車も高級車ばっかりだったのに、最近は庶民的な車がたくさん走っててびっくりするわ、ですと。なんだかモナコってますます私と縁遠い場所のような気がする・・・。
私の座った庶民席では、仕事を引退したおじさんたちが、これから大学院を卒業して就職するウエノくん(24歳)をからかってる。「そうか、君はこれからあれを経験するのか。こっちはやっと終わったところなのに、これからか。まあ、頑張ってくれ。俺は二度とごめんだ。自分を曲げていやいや直属の上司の言う通りにすると、さらに上の上司に、当初自分がやろうとしていたことなぜ思いつかないんだと叱られたりする。常に板挟みだよ。あー、それもやっと終わった!終わって良かった!」なんて延々言っている。ウエノくんは苦笑い。そこへ、まだギャモンを始めて三か月だというHくん(22歳)登場。世界順位一位のモッチー氏の秘蔵っ子だそうで、「もちろん、勝ちに来たんですよ」と言い切る。バックギャモンって、サイコロの目次第の部分もあるので、どんな初心者にも勝ち目は常にある。始めてすぐに頭角をめきめき表す天才肌も時々出てくる。チェスの天才少女の物語「クイーンズギャンビット」をちょうど読んでいたところだから、そういう事情もなんだかリアルに感じられる。ここに集結してる人たち、みんな、優勝するつもりで来てるもんね。
このHくんとウエノくんは、その後、散々痛い目にあって敗退するのだが「こういう悔しい思いをしたということをバネに、十年後は世界チャンピオンっす。」と宣言していた。若いって素敵。
翌日も、なぜか試合が早く終わった。夜にはオープニングセレモニーがある。それまでの時間で、暑さに負けて行っていなかった旧市街地の方を観光しよう、ということになる。カーブを描いている海岸沿いの道を歩いていく。旧市街は坂の上。グーグルマップによるとここらへんから陸路に入るんだよなあ、と夫が先導した道は、延々と坂である。
17年前もそういえばこの坂を上ったなあ、と夫がいう。汗だくで頑張って歩く。(あとで「地球の歩き方」を調べたら、この近くにちゃんと野外エスカレーターがあったらしい。グーグルマップは教えてくれなかった。事前に調べるって大事。)海が美しい、景色もよろしい、だが暑い。上がり切ったところが旧市街入口。耐え切れず、ジェラート屋でピスタチオアイスを食べる。なんだか科学の味だわ。でも、冷たいもので身体を内側を冷やすって素敵。
土産物屋やカフェなどが立ち並ぶ狭い道を歩いて海洋博物館に到着。中は涼しい、そして水槽は美しい。地中海の海洋生物たち、ふわふわ浮かぶクラゲなどを堪能。
そこからそばの美しい公園の脇を通り、ツールドフランスの看板を眺め、グレース・ケリーの眠るモナコ大聖堂を眺める。確かにきれいな街だ、でも、とにかく暑いったら暑い。
そろそろ会場に戻りつつ、どこかでゆっくり夕食を食べて、夜のオープニングパーティに間に合わせよう、とグーグルマップを調べると、会場方向へ行くバスがあるらしい。その停留所まで十分ほど歩くことにする。
くだんの停留所かどうかわからない場所にバスが止まっている。「フェアモントホテル?」と運転手に尋ねるが、分からん、という返事。バスの正面には「CASINO1」と表示がある。「カジノ?」と聞くと、そうだ、と運転手。夫が「モナコでカジノと言えば、フェアモント近くのグランカジノのことだから、カジノまで乗って行けばいいよ」という。で、乗る。
バスは走る。海沿いをいくかと思ったら、どんどん陸地にそれていく。おいおい大丈夫か?手元にあるバス路線図だと、陸路をぐいーんとまわって、最後にカジノ方面に行くバス路線がある。それじゃないの?などと話しているうちに、見覚えのある場所を通り過ぎ、坂を上って行って、坂の上で「ラスト」と言われる。終点だ。バスは回送になって、いきなり降ろされちゃった。どうやら、表示されていた「CASINO1」は、まずカジノの前を通ってから、市内をぐるっと回って、最後は坂の上の住宅地に行く、という路線だったらしい。とほほ・・・。
一体、今我々のいるここはどこだろう、とグーグルで調べると、会場のフェアモントホテルからは徒歩20分くらいの場所。まあ、下り坂だから歩いていくか、ととぼとぼ歩く。夕方になって多少暑さが和らいだのでありがたいけど、なんでこうなるのかなー。ひいひい言って歩き通し、会場近くのレストランに倒れ込んで、軽く夕食。そして、会場に戻ってオープニングセレモニー。世界中の人たちが集まって和やかな雰囲気。シャンパンをふるまってもらったけど、疲れすぎてあんまり味が分かんないよ。そんな夜であった。