ヴァロリス国立ピカソ美術館から無事帰れるか‥の巻
朝、タクシーでモナコ・モンテカルロ駅へ。チケットセンターでアンティーブまで切符を買う。ちなみにモナコとフランスの国境は特に意識されていない。バスや電車は普通に行き来しているし、モナコで最初に泊まっていたアパートは、実は国境を超えたフランス側にあり、道をてくてく歩いている間にいつの間にかモナコ入りして試合会場に行っていたのだ。
電車はニースに行ったときに乗ったので、様子が分かっている。特に問題もなくアンティーブまで普通電車で50分程度。アンティーブは地中海、コート・ダジュールに面した、ピカソのアトリエがあった街。アトリエは今はピカソ美術館になっている。
駅から徒歩10分程度で宿に到着。Hotel de L’Etoileは街角の小さなホテル。まだお昼前だったので、チェックインは無理だろうけれど、荷物だけ預けてランチでもしてこよう。ところがフロントのおじさんは、にっこり笑って「もう、部屋は準備できてるよ」とカードキーをくれた。うれしい。
部屋は冷房でしっかり冷やされていて、ああ、なんて癒されることか。ここ、実は今回の旅で一番、宿代が安かったホテルなのだけど、もっとも親切で温かい対応をしてくれたと思う。フェアモント、見習えよな。前々から思ってたけど、ヨーロッパは田舎の方が親切だし、居心地もいい。
当初の予定では、アンティーブ到着日に地元のピカソ美術館に行く予定だった。ところが、本日は月曜日。アンティーブのピカソ美術館はお休みらしい。でも、隣町のヴァロリスにも別の国立ピカソ美術館があって開館中らしいので、そっちへ行こうということになる。グーグルマップで調べたら、バスセンターからヴァロリス行のバスが出ていて、今すぐ行けばそれに乗れるみたい。よし、行ってみよう。
バスセンターまで歩く。グーグルマップによれば、82番バスで行けることになっている。バスセンターで係の人に聞くと、8番でヴァロリス行に乗れ、と言われたけど、グーグルだと82番のほうが早く来るし、82番のバス表示のある停留所もあるので、そこで待つ。すると、来ない、例によって全然来ない。そして、少し離れたところを82番バスが走っていくのが見える・・・・。てことは、ここには止まらない?
なんだかんだ迷って、そうだ、フランスのバスはグーグルに頼っちゃダメなんだ、とセンターのおばちゃんにもう一度聞きに行くと、憤然とした顔で「エイト!」と言われる。メモ書きに、降りるべきバス停名まで書いてくれる。さっき教えたのに、何で言う通りにしないんだ、という顔をしているけど、実はとても親切な人だ。
で、8番バスに乗り、もらったメモ書きを運転手に見せると、わかった、降りる場所を教えてあげるね、と言ってもらえる。ああよかった。30分かそこらで、ここだよ、と教えてもらって降りる。もうお昼なのでランチはどうする、という話になるが、もしこれで閉館でもしてたら悲しいし、とりあえず行ってみよう。
ヴァロリスのピカソ美術館は小さなお城。
ちゃんと開館していた。ランチは後回しで入ってみることにする。入り口のロッカーに荷物を預けて鑑賞。小規模だけど良い美術館だ。陶芸作品が多いのは、ここヴァロリスにピカソは陶芸のアトリエ「マドゥーラ窯」を持っていたからだという。マドゥーラ窯も、かつては公開されていたが、美術館スタッフに尋ねたら、今はクローズドだという。残念。私はピカソの陶芸作品が大好き。歳を取ってから陶芸に夢中になった彼は、だんだん心が子供に戻ってきたのだと思う。ピュアで無邪気な作品が多い。眺めていると、心が温かくなるようだ。
美術館を楽しみ終えて、外に出る。ひと気の少ない小さな田舎町だ。ランチを食べるにはちょっと時間が遅くなってしまった。レストランを探しても、どこも閉まっている。困ったなあ、と思っていたら小さい店が開いていた。そこでハンバーガーを食べる。向こうの席では、仕事の合間に食事をとるブルーカラーのおじさんたちがいた。何皿かの料理を分け合いながら、山もりのパンを食べ、おかわりまでしている。生活感があって、しみじみする。
さて、アンティーブに戻ろう。さっき降りたバス停の反対車線に行くと、バス停はあるが、アンティーブ行のバスの表示がない。フランス語で何事か書いてあるので翻訳ソフトで調べると、なんと、ここからアンティーブ行のバスは出ないよ、と書いてある。えええー!またしても、バスにやられたか!目の前が真っ暗になる。どうしよう、もう帰れない、タクシーの呼び方もわからない、歩いて帰るのは無理だ!とうろたえる私。夫が「大丈夫だよ、このバスは生活路線だし、ここのバス停に止まらないなら、次のバス停まで歩けばいい。もし、ダメだったらさっきの美術館まで戻ってスタッフに相談してタクシーを呼んでもらってもいい。」と落ち着いて言う。なんでそんなに冷静でいられるの、また私たち、窮地に陥ってるんだよ!!と泣きそうな私。
でもでも、夫の提案に従って、その道をバスの進行方向に歩いていくと、次のバス停があって、おお、そこにはアンティーブ行のバスの表示があるではないか!「ほらね、大丈夫だった。」と夫。いやいや、今までのバストラブルで、すっかり疑心暗鬼になってしまっていた私。テレ東の「路線バスの旅」でも、田舎のバスは驚くほど終バスが早くて、三時にはもう終わってたりするじゃん、もう駄目だと思ったよ・・・。
ちゃんとバスは来た。そして、無事にアンティーブに帰れた我々。なんだか精神的に疲れちゃって、食事に行く気力もないので、スーパーマーケットでサンドイッチやヨーグルトなどを買って夕食にする。お疲れさまでした。でも、行けてよかった、帰れてよかった。そんな一日だった。やれやれ。