ラウリ・クースクを探して

ラウリ・クースクを探して

183宮内悠介 朝日新聞出版

直木賞と織田作之助賞の候補作なんだって。前回、芥川賞受賞作に懲りたけど、こちらは非常に良かった。

舞台はエストニア。エストニアはロシア(ソビエト連邦)やドイツ、デンマークなどに支配された歴史がある。ヨーロッパの北の片田舎にある小さな国だけれど、ITが非常に発達していて「電子政府」が構築されている。

そんなエストニアがまだソビエト連邦の一部だったころに生まれたラウリ・クースクという男性を、一人のジャーナリストが探す物語。ソビエト連邦支配の息苦しさがよくわかる。その中で育まれていく子どもたちの友情。そして、政治に翻弄される日々。当たり前の日常と社会の移り変わりが描かれる。

静かな文体なのだが、リーダビリティに富んでいて、非常に引き込まれる。一気に読んでしまった。途中にあるいくつかの種明かしが感動的ですらある。良い本であった。

エストニアには6年ほど前にいったことがある。国民性は日本人に似て、シャイな人たちだった。静かで、あまり前には出ないが、心の中でじっくりものを考えるような。歴史を感じる美しい国であった。