74姫野カオルコ 光文社
姫野カオルコは「安住紳一郎の日曜天国」のアシスタントアナウンサー、中澤由美子のファンだという。彼女の明るい笑い声に励まされて書き上げたのがこの本だと聞いて、読んでみたくなった。安住紳一郎は「俺のことは好きじゃないのか」と少々悔しがっていたようだが。
姫野カオルコと言うと「謎の毒親」や「昭和の犬」を思い出してしまう。ひどい毒親に育てられたのに、それを淡々と受け入れ、受け流している印象がある。それがまた余計につらい。この本も、主人公の泉(せん)が毒親に搾取されながら、そのことを淡々と受け入れ、受け流して育っていくので、最初の方は読むのがつらかった。だが、泉の生真面目さ、自分を淡々と支える不思議な明るさ、悲しんだり嘆いたりしない強さに、だんだん気持ちが晴れていくのを感じた。
妹ばかりをかわいがる両親に下女のように扱われながら、泉はそれをそのまんま受け入れる。本当は、彼女は美しく、垢抜けている。だが、そんなことはどうでもいいのだ。彼女が、秘密基地の中で会った貂のような魔法使い(?)に頼んだ三つのねがい、とりわけ最後のねがいに私はもう、胸打たれてしまって、泣きそうになった。
一つ目のねがいは、「妹が健康になりますように」。それは優しいからではなく、妹が健康になると私が楽ちんになるからにすぎない、と泉は生真面目に言う。二つ目は、「大きくなったらお父さんとおかあさんと離れて暮らせますように」。ああ、似たようなことを、私も願ったなあ、と思い出す。そして、泉の気持ちがわかって切なくなる。三つ目のねがいは、これから読む人のためにここに書かないほうがいいな。ただ、それは本当に、泉という人そのものを象徴するような願い事で、私はそれを知って、もう駄目だ、泣いてしまいそうだった。
それから泉はどうしたのだろう。それを、いろいろ夢想する。それは、決して悲しいことではない気がして、幸せって、型通りのありふれた形をしている必要はないよな、とつくづくと思う。
姫野カオルコの不思議な明るさ、強さをそのまんま体現するような物語で、私は、この人、大好きだ、としみじみ思った。