ワンダフル・ライフ

ワンダフル・ライフ

88 丸山正樹 光文社

「デフ・ヴォイス」の丸山正樹である。これも友達からのお勧め。今回の旅では、彼女の推薦書にかなり助けられた。改めて、感謝。

重度の障害を負った妻を介護している夫。最愛の妻との子を欲している夫。先の見えない不倫をしている女性。SNSで知り合った女性に会いたいと言われ、介護者に自分のふりをしてもらい、そこに同行する、障害を持った男性。四つの物語が交互に語られ、それらが一つに融合していく。

「尊厳」という言葉の意味を、このところずっと考えている。というか、かみしめている。どんな人も、同じように持っている、尊い、決して踏みにじられてはならない価値。と、言葉にすることはできるが、そんなものが存在するのか、いや、存在させるにはどうしたらいいのか、考えれば考える程、迷路に入り込む。

旅先で、私たちはマイノリティである。言葉もおぼつかない、身体も小柄で、文化風習も違う。でも、同じ人間である。宿に泊まるし、ご飯も食べるし、トイレも使うし、交通機関も利用する。ギャモンの大会では勝負の相手として対等に戦いもする。そんな中、なんらかの不都合、不利益があると、どうしても、これは我々がマイノリティであるが故の出来ごとなのか、それとも単なる偶然、あるいは必然なのであるか、と一瞬、考えずにはいられない。一瞬の立ち止まり。それが、この物語ともリンクする。

人がそれぞれに抱える不条理、不都合、どうしても思い通りにならないこと。それらを私たちは、どう受け止め、どう処理し、どう助け合い、どう支え合うのか。一人一人の尊厳を、どう守るのか。そんなことを考えずにはいられない物語であり、旅であった。と書くと、小難しそうだが、素晴らしいストーリーであって、一気に読める本だった。この作者は、旅の中であと数冊、読んだ。どれも良い本である。