98 浪江由唯 烽火書房
2019年から2020年にかけて「紙」をテーマに303日間の世界一周の旅をしてきた作者が書いた本。「羊皮紙をめぐる冒険」は羊皮紙に魅せられた作者が風呂場でせっせと羊皮紙を作っているうちにもっと羊皮紙を知りたくなって世界を旅していった本だが、こちらは手漉き紙に魅せられた作者が100年後も手漉き紙が残っていてほしいと願って世界中の紙の工房をめぐった話である。勤めてまだ数年の会社を退職して世界を回ったという。
回ったのはタイ、カナダ、アメリカ、メキシコ、リトアニア、ラトビア、エストニア、ドイツ、デンマーク、イギリス、インド、ネパール、ベトナム、ラオス、韓国。途中で資金が足りなくなってワークアウェイという、手伝いをする代わりに民泊させてもらうようなシステムも利用したという。いろいろな国で紙造りを見学したり、実際に作ってみたり、購入したりして、ある程度紙がまとまると段ボールに詰めて日本に送っていたそうだ。
長い長い旅だった割に小さな本なので、深いところまで掘り下げ切れていないのが残念なのだが、その代わりこの本はまさしく紙にこだわって作られている。初版本は既に完売していて、我が家が手に入れたのは、その後新たに作られた普及版なのだが、カバーは、大州和紙に世界各地の手漉き紙の端紙をすき込んで作られていて、タイトルも作者が一点ずつ判子を押して作成している。近所の書店で「ひとつひとつカバーが違うので、一番気に入ったのを選んでください」と言われ、ピンクの紙が混じっている明るいトーンのものを選んだ。
何かを大事だと思い、それをどこまでも追及する生き方は楽しい。人は好きなものを語るときが一番生き生きとしているし、好きなものと出会い、かかわりあうために生きているんだと思う。と、改めて思う本であった。
