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「世界中で迷子になって」 角田光代 小学館
今日、夫が図書館のHPを開いてこの本を検索していたので、予約するの?と聞いたら頷く。その本ならここにあるよ~ん、と見せびらかした。ムダに予約しなくてよかったわ。
角田さんのエッセイは面白い。こんなこと書くとご本人はむっとされるだろうけれど、彼女の貧乏臭さと臆病さ加減が、実に私にマッチするのだ。
この本は、旅と買い物の話。私は旅は好きだけど、方向音痴で臆病で、失敗もいっぱいやらかす。それから、買い物は苦手で、自分のために奮発した買い物が全然できないし、物の値段に常日頃から逆上しがちだ。そこがあまりにも角田さんと同じなので笑っちゃうのだ。
若いころニューヨークに行ってあちこち観光して歩いても全然楽しくなかったのに、この歳になって行ってみたら何もしないのにすごく楽しかったというエピソードが載っている。それ、すごくわかっちゃう。若いころは安旅であれこれ欲張って動きまわったけど、あとから疲労感ばかり多くてそんなに心に残るものはなかったような気がする。最近は少々贅沢な旅をして、すぐに疲れて休んじゃうけど、ほんのちょっとのことが心にしみる、胸を打つ。
少年の心で、大人の財布で旅をしなさい、と書いたのは開高健である。私は彼のこの言葉を、三〇代になってから読んだ。三〇代になってから読んでよかったと思う。二〇代の私はたぶん反発しただろう。大人の財布でしかできない旅なんてつまらないじゃないか、それじゃあ東京とおんなじじゃないかと思ったのではないか。三〇代で読んだから、その言葉のほんとうの意味がわかる。大人の財布というのはお金のことばかりではない。余裕のことだとわかる。
買い物の話も共感してしまう。特に、「傘の値段は正しいか?」に私は反応してしまった。その昔、傘は高かった。ちゃんとした傘を買おうとしたら最低でも三千円くらいはした。だから、傘を買うときは、よくよく選んだし、持ち歩くときには無くさないように気をつけ、大事に扱った。
角田さんはとあるホテルに傘を置き忘れ、一年後に同じホテルに行って傘を返してもらった経験があるそうだ。それ以来、そのホテルのファンになったという。
今みたいに安い傘ばかり買い、忘れ、買い足ししているようでは、ああいう感動はちょっと得られまい。そう思うと、傘の値段が安くなってありがたいが、ちょっとさみしい気もする。
私は百均のお店に行く度、いつも、こんなの間違ってる、と思う。ものすごく便利なもの、ほしいのに今まで買えなかったようなものが百円で気軽に手に入る。嬉しいけど、本当にいいのか?とその度に思う。こんなふうに簡単に手に入って、すぐに無くしたり壊れたりしても惜しくもない。ものとそんなふうに付き合っていって本当にいいのだろうか、と不安になる。そのことを思い出した。
(引用は「世界中で迷子になって」角田光代 より)
2013/7/15