93 斎藤美奈子 紀伊国屋書店
中古典とは、著者、斎藤美奈子による造語で、古典未満の中途半端に古いベストセラーを指す。歴史的な評価がまだ定まっていないこれらの本が、今も再読に耐えるかどうかの「名作度」と「使える度」の二つの観点から判定したのがこの本である。
俎上に挙げられたのは、48冊。数えてみたら、私は六割読んでいた。さすが、ベストセラー。
斎藤美奈子は容赦ない。 「名作度」「使える度」 どちらもバッサリとやられたのが、 「わたしが・捨てた・女」遠藤周作 、 「タテ社会の人間関係」中根千枝 (本日、訃報が新聞に載っていた)、「日本人とユダヤ人」イザヤ・ベンダサン (山本七平)、 『「甘え」の構造』土井健郎 、 「知的悪女のすすめ」小池真理子 、 「気くばりのすすめ」鈴木健二 、 「ひとひらの雪」渡辺淳一 、 『「NO」と言える日本」盛田昭夫・石原慎太郎 、 「清貧の思想」中野孝次 である。
それはまあ、わかるのだが、井上ひさしの「青葉繁れる」も一緒に大否定されている。確かに読んだはずなのだけれど、どんな話だったっけ、と思っていたら、あらすじがちゃんと載っていて、衝撃を受けてしまった。これ、セクハラ小説というか、レイプ小説だったのである。近隣の女子高の「100点満点で言うなら10点のたん瘤のある女子」を男子高校生が松島の五大堂に呼び出して、押し倒す。手ぬぐいを口に押し込んで叫び声を封じ込め、下ばきを引きずりおろしたが、下に、水着を着ていたので事を成せなかった。翌日、女子高の教師が男子学生の好調に抗議をすると「彼女はひょこひょこ山へ行き、行ったら当然起こるであろうことが起こっただけなのに、乱暴されたとわめく。これは実に卑怯ですなあ。」と答えたという。どう考えても逮捕間違いなしの性犯罪であるのに、これが青春のほろ苦い、あるいは楽しい思い出として語られている、というから参ってしまう。井上ひさし、そういう人だったのね。たとえ時代が時代だったとしても、あまりにもひどい。それにしても、なぜ私、覚えていなかったのだろう、自分を疑う。渡辺淳一や石原慎太郎がばっさりやられるのは当然すぎるほど当然だけれど、見落としていたものがあることに気が付かされて、はっとするものがあった。
ご参考までに、文末に題名と作者名、 「名作度」「使える度」 の順に★で表記する。
「橋のない川」住井すゑ ★★★ ★★★
「日本の思想」丸山眞男 ★★★ ★★
「キューポラのある街」早船ちよ ★★★ ★★
「江分利満氏の優雅な生活」山口瞳 ★★★ ★★
「わたしが・捨てた・女」遠藤周作 ★ ★
「感傷旅行」田辺聖子 ★★ ★★★
「されど われらが日々ー ★★ ★★
「白い巨塔」山崎豊子 ★★★ ★★
「天国にいちばん近い島」森村桂 ★★ ★
「文明の生態史観」梅棹忠夫 ★★★ ★★
「タテ社会の人間関係」中根千枝 ★ ★
「あゝ野麦峠」山本茂美 ★★★ ★★★
「青春の蹉跌」石川達三 ★★ ★★★
「どくとるマンボウ青春記」北杜夫 ★★★ ★★★
「赤ずきんちゃん気をつけて」庄司薫 ★★★ ★★
「日本人とユダヤ人」イザヤ・ベンダサン ★ ★
「二十歳の原点」高野悦子 ★★ ★★
『「甘え」の構造』土井健郎 ★ ★
「サンダカン八番娼館」山崎朋子 ★★ ★★
「恍惚の人」有吉佐和子 ★★ ★★
「青葉繁れる」井上ひさし ★ ★
「日本沈没」小松左京 ★★★ ★★
「自動車絶望工場」鎌田慧 ★★★ ★★★
「兎の眼」灰谷健次郎 ★★★ ★★★
「スローなブギにしてくれ」片岡義男 ★★ ★★★
「桃尻娘」橋本治 ★★★ ★★★
「知的悪女のすすめ」小池真理子 ★ ★
「四季・奈津子」五木寛之 ★★ ★
「原発ジプシー」堀江邦夫 ★★★ ★★★
「ジャパンアズナンバーワン」エズラ・F・ヴォーゲル ★★ ★
「蒼い時」山口百恵 ★★ ★★
「悪魔の飽食」森村誠 ★★★ ★★★
「なんとなく、クリスタル」田中康夫 ★★★ ★★
「窓際のトットちゃん」黒柳徹子 ★★★ ★★★
「気くばりのすすめ」鈴木健二 ★ ★
「ルンルンを買っておうちに帰ろう」林真理子 ★★ ★★
「ひとひらの雪」渡辺淳一 ★ ★
「構造と力」浅田彰 ★★ ★
「見栄講座」ホイチョイ・プロダクション ★ ★★★
「良いおっぱい 悪いおっぱい」伊藤比呂美 ★★ ★★
「塀の中の懲りない面々」阿部譲二 ★★ ★★
「極東セレナーデ」小林信彦 ★★ ★★★
「ノルウェイの森」村上春樹 ★★ ★★
「キッチン」吉本ばなな ★★ ★★
『「NO」と言える日本」盛田昭夫・石原慎太郎 ★ ★
「この国のかたち」司馬遼太郎 ★★ ★★
「清貧の思想」中野孝次 ★ ★
「マディソン郡の橋 」ロバート・ジェームズ・ウォラー ★★ ★★