106 大谷亨 NHK出版新書
副題は「スマホからはじまる珍神探訪」。
共産主義国家である中国は、信教の自由が否定され、文化大革命で残されていた民間信仰も全部壊されてしまった。と思われていることが多い。だが、実は、中国には、儒教、仏教、道教以外の一般大衆が勝手に練り上げ、勝手に信仰している野良宗教が存在する。中国版TikTokには、そうした、どんな研究機関もアーカイブしていないような土地土地の文化習俗にかかわる未知の情報が実はあふれている。筆者はそこからめぼしい珍神動画を見つけては現地を訪ね、民俗学のフィールドワークを行っている。彼の興味は鬼(グイ)、すなわち怨霊に関する信仰に集中している。
奇怪な神々が跋扈する中国。この本ではその中からいつも逆立ちのポージングを取る「逆立ち張五郎」、やたら派手でセクシーな「九尾狐」、日本から逆輸入された「大黒天」、お盆フェスに祀られる謎の神「聖人公媽」、死神「無常」などがレポートされている。いずれも現地でのフィールドワークレポート込みであるため、一種の旅行記の様相も呈している。図々しく現地の人に入り込んでいくために、筆者自ら千原せいじを憑依させるという芸当も行っているから笑える。
中国というと、最近は、なんだかやばい国、気を緩めると日本を侵略しようとする国だなんて言いたがる人も多いが、あの国は実に広い。民族も文化も多様である。そんな一枚岩の国家ではない。政府が厳しく統制しているかのように見えるかもしれないが、人々は勝手に生活し、自らの文化、習俗の中で生きている。奇天烈でへんてこな神様もいるし、俗と欲にまみれた、だからこそ人間臭く、愛すべき人たちが大勢生き生きと生活している。この本を読んだら、中国を目の敵にしたがる人たちも、ちょっと考えを改めるんじゃないかと思ったりもする。人は、どんな国でも、同じようにちょっとトンチキだったり変だったり、でも、すごく人間らしく生きているものだ。日本だって同じじゃないの。
面白い本だった。格式ばった文化論よりも、こんなフィールドワークのほうが、ずっとその国の生き生きした現在を見せてくれるものだと思う。
