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「人生最後のご馳走
淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院のリクエスト食」
青山ゆみこ 幻冬舎
「ほんのちょっと当事者」の青山ゆみこである。この本は、とても良い仕事だと思う。
淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院には「リクエスト食」という取り組みがある。病院によって決められた食事ではなく、患者さん一人ひとりが好きなメニューをリクエストするという。
管理栄養士がベッドサイドで患者に寄り添いながら、いま食べたいもの、味付けの好み、食べた医療の要望などにゆっくりと耳を傾ける。それが調理師に伝えられ、最大限、希望を実現化する。
他の病院から転院してきた患者さんがほとんどで、食べたくても食べられないという経験を経てきたにもかかわらず、取材を進めると「食べられるようになった」という喜びの声を何度となく耳にしたという。メニューを選んだ理由を取材すると、料理名だけでなく、食にまつわるエピソードが患者さんから溢れ出し、それはその人がそれまで過ごしてきた日常の光景でもあった。その風景の奥には、患者さんの生きてきた時間が広がっていた。
この本では、リクエストにまつわるエピソードから、実際にどんな料理が出され、それをどのように食べたかが十数件と、それに携わった人たちへの取材が描かれている。料理の写真も載っていて、どれもが本当に美味しそうだ。そして、ほんの少ししか食べられないにせよ、あるいは、思いがけなく完食できたにせよ、患者さんたちがどんなに嬉しそうだったかがリアルに伝わってくる。食は、人生を支えるし、大きな喜びなのだとつくづく思う。
わたくしごとだが、最近終の棲家を決めた。それに際し、うっかりしていたのが「最後を過ごす場所」の準備である。実は、かつては小金井市あたり、または中央線のその付近に住もうかと考えていた時期があって、それというのも、桜町病院聖ヨハネホスピスという信頼できるホスピスで最後は過ごしたいという思いがあったからだ。今住んでいる場所のそばにホスピスがあるかどうかは探しそびれていたなあ。が、必ずしもホスピスに入るような死に方をするとは限らないし、あまりこだわっても仕方がないのかもしれないとは思うが。(夫は、遠くても最後には良いホスピスに入ればいいじゃないか、と言うが、いやいや、運ぶだけでも大変なことになるし、順番待ちもあるし、そばに越したことはないよ、なんてそんな話をする老夫婦である。)
ホスピスには病棟型と独立型があって、病棟型は、部屋を変わるだけで住むので抵抗がないが、独立型のホスピス病院に移るとなると、ついにもう手の施しようがなくなったか・・・と本人も家族もがっくりして、抵抗が大きいという。だが、独立型だからこそケアは手厚くできるという。例えば、この料理の問題もそうだし、面会時間なども、他の患者さんへの遠慮なしに、いつでも、夜でも真夜中でも受け入れる、ということができたりするのだそうだ。
うちは、もうだめだと思ったら、あっさり独立型のホスピスに移れたら移っちゃって、美味しいものを食べて、幸せに最後の時を過ごそうね、なんて夫と話した。そんな話が、だんだん他人事じゃ無い年齢に突入してしまっているのだなあ、と思った。
2020/6/18