人間の証明 交流226日と私の生存権について

人間の証明 交流226日と私の生存権について

148 角川歴彦 リトルモア

東京五輪をめぐる汚職疑惑で逮捕された角川書店の会長、角川歴彦。79歳で拘留され、226日後に保釈されたときは80歳であった。心臓に重篤な持病をもち、手術の日程も控えていた中、必要な薬も与えられず、まさしく命の危機に瀕しながらの日々であった。

この本は、彼の無罪を主張するものではない。否認や黙秘を続け、罪を認めないでいると、被告人、容疑者は長期にわたって拘束され続ける。検察は、非人間的な扱いを続けることで諦めさせ、自白を強要し、有罪判決に結びつけようとする。そんな検察捜査の在り方に異議を申し立てるのが本書である。すでにえん罪が明らかになった大河原化工機の経営幹部三名の逮捕においても、悪性腫瘍と診断されながら保釈も却下され、適切な治療が受けられず、顧問だった相嶋静夫さんはお亡くなりになっている。刑事収容施設だけではない。名古屋の入管施設内に収容中のスリランカ女性ウィシュマ・サンダマリさんが適切な治療を受けられずに亡くなった出来事も記憶に新しい。えん罪が明らかになった袴田さんも、長期拘留の結果、精神にダメージを受けておられる。

こうした人質司法が違憲であるという訴訟を提起することを角川歴彦氏は決意した。死なないと出られないとまで言われた拘置所から出た今、彼は残りの人生をその訴訟にささげるという。

本当に、ほんのちょっとした誤解からえん罪に問われ、拘留され、それを否認する限り拘置所を出られないとしたら。想像するだに恐ろしい。根性なしの私など、あっという間に嘘の自白に署名してしまいそうな気がする。それにしても、検察は高圧的である。メンツにかけて有罪を勝ち取ろうとする姿勢は、袴田さんに対する検事総長の態度からもまさしく明らかである。その一方で、性加害事件を理由も明らかにしないまま不起訴にしたりもしているというのに‥‥。

あっという間に読める本なので、図書館にリクエストしてでも多くの人が読むといいと思う。権力は恐ろしい。それを食い止め、人権を守るのは憲法の力である。違憲裁判の行方を見守りたい。