今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった

今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった

59 鳥飼茜 文芸春秋

初めましての作家かと思ったら、「私の身体を生きる」に書いた人であった。あの本は何人もが自分の身体について語っていたが、決して明るい楽しい話ではなかった。鳥飼茜も、女性を性的価値でしか評価しない父について語っていたはずである(手元に本がないので確認できないんだが)。

鳥飼茜は一度結婚し、子どもをもうけ、離婚した。もともとの姓は、いわゆる難読漢字で国語教師ですら一度も正しく読むことができないような希少な苗字であった。そのための苦労が多かったので、最初の結婚で平凡な姓に変わった時はむしろ嬉しかったという。子どもの姓も変えたくもなかったので、離婚後も最初の結婚の姓を名乗り続けた。が、同業者(漫画家)と再婚し、また新たな姓に変わることとなった。だが、再婚はうまくいかず、大変な思いをして、また離婚にこぎつけた。離婚に際して姓は変えなかった。仕事上はペンネームを使っているし、姓なんて記号に過ぎないと最初は思っていたのだ。だが、その後、名前を呼ばれると心臓の裏に湿疹が一斉にできるような違和感にさいなまれるようになった。それだけ相手との相性が悪かったのである。

耐えられなくなった彼女は悩みに悩み、一度目の結婚相手の姓に戻すことを決意して家庭裁判所に申し立てを行った。煩雑な書類を作成し、資料を集め、家庭裁判所に送って数か月後、「審判確定証明書」を受け取った。これをもって区役所に行けば、戸籍上の苗字は最初の結婚相手と同じものになる。だが、そのほかの、国民健康保険、年金、運転免許証、パスポート、銀行口座、クレジットカード、各種団体保険、自宅の登記などなどあらゆる名義変更手続きを行う必要がある。結婚の度にその煩雑さを乗り越えてきて、今また・・・とめんどくささに負けてしばらく放置し、ついに決意を固めて区役所に行ったところ。

「大変申し上げにくいのですが、今日から法律が変わりまして、この書類は受け付けられません」
と言われてしまったのだ。覚えのある人もいるだろう。戸籍にフリガナの記載が義務付けられる法律改正があったことを。鳥飼茜が手に入れた「審判確定証明書」は改正以前のものだったため、フリガナ記載がなく、フリガナ記載の入った書類をもう一度取り直さないと受理されないというのである。

区役所でどんなに抗議したところで、法律は変えられない。家庭裁判所に相談に行ったら「今日、提出したんですか?寄りにも寄って。」とあきれられてしまったという。それからの苦難と、彼女の三度目の結婚にあたっての姓の選択についての顛末が、本書には書かれている。

選択的夫婦別姓。これが認められていたら何の苦労もなかった困難の話である。よその夫婦が別姓を選択するとどうしても都合が悪いなどという人がいるとは思えないし、選択的って言ってるんだから、そうしたくない人がそうしなくたって何の不都合もないというのに、この制度が議論され始めて二十年、いまだに認められていないってどういうことだ。本当に、心からそう思う。人の勝手でしかないことを国やら自治体やらよその人たちが勝手に決めつける。その理不尽の本である。本当に、さっさと認めてほしい制度である。