14 村田紗耶香 文芸春秋
題名だけ見ると「神さまってなに?」と繋がりそうに思うけれど、実はこれはどっちかっていうと小川洋子と友情をはぐくんでいる本のように思える。そう、作者の妄想の世界で読者が遊ぶ、という意味で。でも、小川洋子と違って、あんまり居心地が良い世界じゃないのね、村田紗耶香は。
この本には八つの短編が収められている。表題作は、カルト宗教やマルチ商法の話。それから、科学の発達によって子供のころからその人の65歳以後の生存率がABCランクで決められたり、ランクが落ちすぎると野生に戻ってだんだん野人化していく世界の話や、実は地球人にみえるけれど実は宇宙人がこの世にいるという話、そして宇宙の遠いどこかからゲイジュツを探して、人類の亡びた未来の地球に来る別の星の生物の話なんかが載っている。SFというか、妄想というか。どんどん村田紗耶香の頭の中に広がる世界に取り込まれていく。
転勤族の私は、新しい土地に動くたびにマルチの人に出会った。張り付いた笑顔で、あなたのことが大好きだから、あなただけに特別に教えてあげる良い情報があるの、と近づいてくる人。とても良い商品を安価で手に入れられるけれど、それをお友達に紹介すると、なんと紹介料がどんどん手に入るの。とか。あなたはいま生きるのがつらいのでしょう?でも、この会にはいれば、とても幸せになるのよ、とか。家庭がうまくいくためには早起きをすることです、と生真面目な顔で諭す人もいた。それを信じる人もそこには必ずいて、それから、信じているのかいないのかよくわからないけれど、そこに踏みとどまることで生きている人もいた。
「信仰」にはそんな人が登場する。騙された過去にリベンジしたいという人も出てくる。でも、主人公は「現実」を信仰している。高価な商品を見ていったい何の役に立つの、と考える。夢の国と呼ばれるテーマパークに行って何が楽しいの、バカ高いレストランやお土産品の原価はこんなものよ、と言いたくなる。恋人との結婚が決まっても、式場の費用のバカ高さに何の意味があるのか、と考える。そして友達は離れ、恋人は去っていく。ああ、私もこっちの人間だ。夢の国を楽しめない、ブランド物の付加価値を理解しない。それはカルマです、と私も言われそうだ、この物語のように。
人間の不確かさ、おかしさ、あやふやさを村田紗耶香は抉り出す。生きづらさを描き出す。それは、異常にみえて、無茶苦茶に見えて、実は私が持っているもの、あなたの中にもきっとあるものなのだろう。
ちょっとした連絡。二月前半はバタバタして、半月ほどブログ更新ができないかもしれません。事情と環境が許せば書くこともあるかもしれないけど。しばらく音沙汰がなくても、コメントが反映されなくても、良かったらお待ちください。落ち着いたら戻ります。私は元気なので心配しないでね。では。