29 小指 白水社
なんで知ったのかなあ。岸本佐知子さんが帯を書かれたというから、その関連かも。まるでつげ義春のような旅のマンガとエッセイであった。
作者は漫画家、画家、随筆家。この本は旅行記だ。白黒で細かく描き込んだ漫画と随筆が載っている。絵のタッチはデフォルメされた人物画とリアルな風景が混在。不思議な味わいがある。伊豆大島に行くつもりが乗り過ごして神津島に行ってしまい、島の船頭に泣きついて伊豆大島に戻してもらったこと、住人のほとんどが外国籍で24か国の人が暮らしている神奈川県のいちょう団地に苦労してたどり着き、お祭りに参加したこと、バンドのライブで(この作者は何とバンドもやっているそうな)大阪遠征し、宿も取っていると言われて安心していたら、そこは西成のドヤだったこと、沖縄の風俗街で見つけた味わい深い食堂のこと‥‥。なかなかディープな旅の話である。
旅に出れば、知らない風景に出会える。知らない人と触れ合える。怖い思いも、困った思いもするが、思いがけない親切に出会うことがある。そしてそのほうが多い気がする。この小指さんも同じだ。旅はだからやめられない。自分の世界がどんなに狭かったか、知らない場所にどんなに豊かな出会いがあるのか思い知るのが旅である。そんな本であった。
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