102 米澤穂信 東京創元社
夫の旅のお供本。ま、面白かったけど、というので読んでみた。米澤穂信は、「栞と嘘の季節」以来だ。うーむ。このミステリは、頭でっかちだ。
何しろ、このミステリは、主人公が物語が始まって早々に交通事故に遭ってしまい。命は助かったものの、骨折だらけでベッドの上で身動きもできなくなる。車いすに乗って移動できるようになるのだって、かなり後半に入ってからだ。だから、ストーリーはほとんどベッドの上で進行する。ひたすら、主人公の小鳩くんが、頭の中で考え続けていることを読者は延々と聞かされることになる。様々な風景や事故や人間関係は、すべて小鳩くんの頭脳の中にある。たまに病室の風景や、食べ物の話もはさむが、ほとんどは彼の想像や思考や分析が描かれる。そして、彼はずーっと考えている。頭の中は、ものすごく働いている。身体はただただベッドの上に横たえられているのに。
まあ、ミステリなんてそんなものだよね。安楽椅子探偵なんて言葉もあるくらい、現場には一切行かないで、与えられた情報だけで推理をする物語だってある。それにしても、高校生という若々しいはずの小鳩くんが、小佐内さんという魅力的な女子とコンビを組んで進展する物語なのに、小佐内さんは最後になるまで全然姿を見せないし、小鳩くんは寝ているだけ。もうね、頭の中だけの話なの。
というようなことを散歩しながら夫にしゃべっていた私。なんていうんだろう、こういうのってさ、と言ったら「こじらせてるよね」と言われて、そう!それ!と思った。これは、こじらせミステリである。もう、妄想に近いほどの想像力の働かせ方、そして、自意識過剰。細かい、些細なことにまで意識を巡らせ、自分という存在とのかかわりを確認し続け、追及する。そして、真実に到達しようとするのだけどね。あー、めんどくさっ!ってちょっとだけ思っちゃうおばちゃんの私。青春の、こじらせミステリ。そこに、冬季限定のボンボンショコラなんて甘い甘いお菓子を絡ませるのもなかなか粋ではあるが。と思ったら、これ、シリーズものなんだって。「春期限定いちごタルト事件」「夏期限定トロピカルパフェ事件」「秋期限定栗きんとん事件」に続く季節限定スイーツシリーズだったらしい。そういえば、夫の書棚にそんな本を見たことがあるような(笑)。