122 名取佐和子 実業之日本社
「文庫旅館で待つ本は」に続いて名取佐和子を読む。これは、「銀河の図書室」の前段のエピソード物語であった。
「銀河の図書室」は宮沢賢治がモチーフだったけれど、その空気感にはケストナー風味があった。そうしたら、この「図書室のはこぶね」はまさしく「飛ぶ教室」がモチーフなのであった。
10年前に貸し出されたままの「飛ぶ教室」が野亜高校の図書室に戻ってきた。なぜ、いま。そして、誰が。その謎を解くのは、体育会系の大柄な、負傷中のバレー部の女子。彼女を取り巻く仲間たち、そしてかつてその本を借りた生徒の周囲の人々。その関係性が「飛ぶ教室」とリンクする。
いじめやLGBT、思春期にありがちな人間関係のあれこれ、学校行事の伝統と変革などなど、様々な問題が丁寧に描かれている。高校生活は、やっぱりさわやかなだけではない。どろどろした感情や、行き場のない思いなどが渦巻いて、でも、その中でも分かりあったり支え合ったりすることがどんなに大事なのかが伝わってくる。
良い物語だった。ただ、この人の物語を三作読んで思ったのだが、そろそろ大事な人の死の謎を解くというパターンではないものも読みたい気がした。
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