土偶を読む図鑑

土偶を読む図鑑

25 竹倉史人 小学館

作者はもともと宗教史や神話の専門家である。大学で神話の講義をしていた時、ふと「縄文時代の神話ってないよね?」と思ったという。文字はないけれど、もしかしたら、土偶にヒントが隠されているのかも…と思い、それからは土偶の統計データを調べたり、資料を読んだり、土偶と一緒に寝てみたり(笑)。土偶で頭がいっぱいになった。そして、もしかしたら土偶と植物利用が関係しているのでは?という発想にたどり着いた。土偶は人体や妊婦を象ったものである、というこれまでの通説に対して「土偶は植物をかたどった精霊像である」という新説を出すに至ったのである。

この本は図鑑であるのでたくさんの写真資料が掲載されている。たとえばハート形土偶と呼ばれている土偶の形は、確かにオニグルミの形に似ている。そして、ハート形土偶の分布は、まさしくオニグルミの成育分布と重なっているのである。同様に合掌土偶や中空土偶は栗の形を表していると考えられる。また、逆三角形の不思議な形をした椎塚土偶は、ハマグリをモチーフとしていると考えると当時の海岸線、潮干狩りができる場所と合致してくる。このように考えると、ほかの土偶も、イネやヒエ、サトイモなどを模したものとして理解できていくのである。

土偶が好きだ。博物館などでも、土偶に出会うと嬉しくなってしまう。あの素朴な形。この図鑑には、巻末にどこへ行けばどんな土偶に会えるかも丁寧に表示されている。土偶は植物をかたどったフィギュアのようなもの。そう考えて、もう一度、土偶を見直してみたくなる。歴史は楽しいね。私たちの先祖がどんな暮らしをしていたのかを考えることは、実は私たち自身を知ることでもあるのだと思う。