夏の力道山

「夏の力道山」 夏石鈴子

この人の作品は、初めて読んだのだけど、いやあ、惚れたね。このキップのよさは、何だろう。強さ、優しさ、見極め、あきらめ、選び取る力の確かさ。かっこいいっす。

「辞めない理由」(蒼野圭)や「主婦は一日にして成らず」(青木るえか)などの主婦モノは何冊か読んでいるけれど、この人みたいな主婦っぷりは初めて。でも、こういう人って絶対、いるよね。私は、好きだ。

私は自分の発言を、「これは一家の主婦の公式見解である」と、思う。「一家の主(あるじ)」という言葉があるけれど、それなら「一家の主婦」という言葉もあっていい。(中略)ご飯を食べさせ、家の中を整えて、自分以外の家族に目を配る。欠けている物は補い、優しい言葉をかけ、みんなが元気で気持ち良くいられるように、と考える。
 それをしていれば、朝から大声で泣く子ども、ぶすっと食卓からにらみつける夫、「ああ、仕事が終わっても帰る場所はあそこなのね」と足取りが重くなる妻を救うことができるのである。そう、主婦は一人二役で、自分自身も助けることができる。
(「夏の力道山」より)

生まれ変わっても、また一緒になりたいと思うほど、相性のよさを感じているわが夫に対しても、そりゃ、それなりに不満はあるわたくしでございます。夏石さんの小説に出てくる夫ほどひどくはないが、まあ、世の中そうしたもんで。でも、彼女のきっぱりとした姿勢を見ると、そうよね、私は一家の主婦なんだもん、そこはそれとして、ちゃんと仕事をこなしましょ、と思えてくる。
前向きだわ。大事だわ、この姿勢。

洗濯をするなら、自分でタオルを集めて欲しいと思う。そして、かわりの新しいタオルをかけてもらいたい。明彦の家事というのは、全てにこういう感じがある。最初から最期まで自分一人でやりとおすという気持がない。ゴミを捨てに行くにしても、「今日はゴミの日だから、ゴミを大きな袋に集めておきなよ。捨てに行くから」と、言う。うちに散らばっているゴミ箱から、せっせとゴミを集め一つにするのが結構な手間なのだ。それをやってこそ、本当のゴミ捨てだ。明彦のやっている事は、ゴミ運びではないだろうか。(「夏の力道山」より)

そうだよねえ。オトコの家事って、こうなりがちだ。と、ツマはいつも思っているけれど、なかなか口には出さない。そういう部分を、かなり的確に、この人は文章化する。妻の気持ちを、ぴたり、ぴたり、と言い当てながら、でも、陰険にならない、オトコも愛している、自分をコントロールすることも分かっている。大人だなあ。女って、こうやって大人になるんだなあ、としみじみ思ってしまう。

この人のデビュー小説「バイブを買いに」を褒めている書評を読んだことがあるけれど、題名のインパクトに負けて、未読のままだ。勇気を出して、読んでみようかな、と思ってしまった。

2007/3/25