夏日狂想

夏日狂想

2023年1月3日

1 窪美澄 新潮社

窪美澄は「朔が満ちる」以来である。この作品は、中原中也(作中では水本正太郎)と小林秀雄(作中では片岡武雄)が奪い合った女性がモデルとなっている。広島のミッションスクールで何不自由なく育った器量よしの少女が、父を亡くし、伯父の支配を逃れて女優を目指して東京へ出る。何人かの男性とかかわりと持ちながら、大部屋女優となり、酒場の女となり、文筆にも携わる。水本の詩を最も理解し、支えたのが自分であると思いながら、彼を紙屑の様に捨て、走った片岡とも別れ、中原淳一(作中では田原亮一)のもとで少女小説を書く。関東大震災や東京大空襲なども経験しながら彼女は流れていく。

女性が自分らしく生きるというのは困難なことだ、と思う。ましてやその時代、どんなに大きな障壁があったことだろう。女優になるための映画界や新劇界に当然のようにあるハラスメントやレイプのエピソードは実は今も連綿と続いているのだろうなあ、と昨今のニュースを見ても思う。

それでも、最後まで自分らしくあろうとし、自分だけの表現に向かい、誇りを持ち続けた女性の物語。でもなあ。彼女は人が振り返るほど美しかったから、だから、ここまでできた、という風にも読めてしまうよなあ、とちょっと思う。きれいであること、美しいことってそんなに大事なんだろうか、武器なんだろうか。なんだかなあ。そこに私はなぜ引っかかるんだろう。自分の容姿に関して特に不満もなければ誇りもないんだが。そういうことじゃないんだろうな。