109 丸山正樹
「孤高の相貌」以来の丸山正樹。あの本の主人公、何森刑事も登場した。これは「わたしのいないテーブルで」の続編である。
みゆきの連れ子、美和も高校生になった。再婚後に生まれた瞳美も小学生である。元警察官だった荒井尚人は手話通訳士を続け、みゆきは警察内で業績を重ねている。じゃあ、順調じゃん、というわけにいかないのが世の常。ろう者である瞳美の進学先をどこにするかという大きな問題があるし、美和には思春期ならではの心の揺れもある。夫婦の仲も微妙に変わってきている。
テーマパークで観覧車に乗るのに、ろう者だけでは万が一の時の誘導ができないからと乗車を拒否されることがあるとは知らなかった。だが、あきらめず施設側と話し合いを重ねて解決策を見出す流れがあったのが救いである。知らないことがまだある、と改めて思う。障害がある人が不自由であることを当然だとみなさず、どうにか解決を探していく姿勢は本当に大事なことだ。自分にとっての当たり前が、誰にとっても当たり前ではない、ということを忘れてはいけないし、様々な工夫がその違いを乗り越える方法になることも、覚えておきたい。どうしたら、何をすれば、とあきらめず考えること。それは誰にとっても、どんな問題においても、とても大切なことだ。
アセクシャルの問題、夫婦別姓の問題なども盛り込まれていた。やや盛り込み過ぎのきらいもあるが、作者はそうしたことを見過ごしたくないのだろうと思うし、その気持ちは伝わってくる。ただ、夫婦の気持ちが徐々に変化したり、人間関係が変わっていくことを、こんな風なストーリーに落とし込んでしまったのだなあと少し寂しくもなる。そりゃ、そういうこともあるだろうけれど。求め過ぎなのかもしれないけれど。
手話教育の問題も、世間の認識、教育界の一般的な認識が遅れていて不十分なことがよくわかる。このシリーズ作品が多く読まれることが、きっと社会の理解を深めていくのだろうと願うし、期待したい。たぶん、実際に大きな仕事をこのシリーズは果たしている。少なくとも、私は知らないことをたくさん知ったし、忘れずにいたいと思うことがたくさんあった。
ただ今回は、荒井尚人があんまり魅力的じゃなかった。何森さんのほうがずっと魅力的だった。まあ、そもそもが荒井尚人はそういう人物として造形されているのだとは思うけれど。もうちょっと元気出せよ、とつい思ってしまった(笑)。彼とは、これでお別れなのかなあ。
