65 丸山正樹 双葉文庫
「デフ・ヴォイス」シリーズの丸山正樹である。ドラマが話題になっていたのだが、あの人が原作なのか‥と意外に思った。ドラマは見てないのだけどね。
仕事に頑張ってる女性が、女であることに足を引っ張られ、姑に子どもはまだかと問われ、夫にはいら立ちを全く理解してもらえず、気持ちはすれ違うばかりだ。時々会う大学時代の女友達三人組との愚痴交じりの飲み会だけが息抜きである。友達はそれぞれに離婚を経験したり、DV、モラハラの夫に苦労したりしている。そして、表題のような言葉を言い合ってはその日を生き抜いている。
子育ての閉塞感から逃れるために、長いこと私は育児、主婦サイトに出入りしてきた。それらの場所では、この表題の言葉は実にありふれた存在であった。夫はATMだと思え。夫が出張の日だけがのんびりできる。夫が病気で手を煩わせることもなく保険金や年金や退職金を残してある日突然事故死してくれたらどんなに楽だろう・・・。そんなことを世の主婦たち、母親たちはSNS上で公然と言いあっていた。世の男性たちは、自分がこう思われていることに気づいていないのだろうか。妻がこんな風に不満をため込んでいることがわからないのだろうか。それがいつも不思議だった。
実際に夫を殺す小説もいくつかあるよね。遠い昔、図書館からの「予約の本が準備出来ました」という電話を夫が代理で受けて題名を問うたら「『夫殺し』です」と言われて唖然としていたことがあったっけ(笑)。あれはたしか台湾の小説だった。桐野夏生にもそんな小説があったと思うし、決して珍しい話ではないのだけれど。
だけど、夫婦の問題は夫だけが一方的に悪いわけではない。妻側だっていうべきを言わず、あるいは飲み込み、その場をしのぎ、ごまかし、逃げているわけだから。我慢に我慢を重ね、ある日、ついに殺してしまえ!となるというのも怖い話だ。ということにだって気が付きたい。そこが大事。
一方的に耐え忍ぶと、こういう結末に向かってしまうのだから、早めに何でも言うがよろしい、喧嘩も大いにするがよろしい。などと言うのはおばちゃんのたわごとなのかもしれないが。まあ、そういう方向性も示す本ではあるのだよなあ、と思う。思うが、社会はやっぱり女性に不利にできているよね、まだまだ今は。どうしても女性側が我慢の度合いが強くなる。そのことも忘れてはならない。
この本は実は若い夫たちが読んだほうがいいのかもしれないと思う。でも、読まないんだろうなあ。読めよ。