134 アンジェラ・サイニー
上野千鶴子が、目からうろこがボロボロ落ちる、とワクワクした様子で絶賛していたので読み始めたのだが、これが手ごわかった。一週間以上、うんうん言いながら読んだ。
著者は最新の科学、考古学、人類学などの成果をもとに、実際に世界各地を訪ね歩き、丹念な取材を行っている。その背景にある様々な深い知識と教養をもたない私は、書かれている事柄を理解し、嚙み砕くのに非常なエネルギーを要する。深すぎて、読むのが大変なのよー。
家父長制は男性支配の社会制度に与えられた名称であり、男尊女卑はその現象形態である、と解説で上野千鶴子氏は書いている。家父長制の最広義の定義は「年長男性による年少男性と女性の支配」だという。おお、この定義はわかりやすいぞ。日本では「家」制度が否定され、戸主による家族成員の支配はなくなったが、「誰のおかげで食べさせてもらってるんだ」「俺を同じだけ稼いでからものを言え」という夫の支配だって家父長制である、と上野先生はいう。そうだよねー。
家父長制の起源について問うのは危険な試みだという。もしそれが人類史の初めから人間の社会システムに埋め込まれた制度であるとするなら、家父長制は人類の運命でありDNAであり、変えられないものとなってしまうからだ。だが、著者の答えはNOである。
人間に最も近い霊長類の社会は多様なジェンダー構成に寄って出来上がっている。一夫多妻の種もあれば、生涯一夫一婦の種もいる。ニホンザルのような群婚社会では母系が集団結束の要になるし、ボノボのようにメス同志の性的接触で集団を維持するところすらある。
人類が始まってからも、狩猟採集民の段階ですら、よく言われる「男が狩りに行き、女が子を抱いて待っていた」という物語はもはや神話に過ぎない。科学的な測定方法が格段に進歩したおかげで、太古の昔から女性がハンターだったり戦士である例もあれば、副葬品から明らかに首長であった埋葬例も次々とあきらかになっている。国家が成立したのちも、古代ギリシャのスパルタの女たちは戦士を生み、土地を相続し、財産を管理した。著者はそれらの歴史を紐解き、あるいは世界各地の、例えばイスラムの家父長制、あるいはソビエト連邦化におけるジェンダーのあり方、アフリカの女性器切除の伝統とその意味合いなどなどを調査する。調査、分析する対象があまりに多岐にわたっているために、私のような読み手は、よろよろとついていくのがやっとである。
家父長制は一枚岩ではない。普遍でも不変でもない。とこの本は説いている。そうだよね。でも、難しすぎてたいへん。本当に理解しようと思ったら、これをテキストに、一年くらいはかけていろいろ他の本も読んだり調べたり考えなくちゃね、と思ったりもする。それって学問だよなあ。学問っていいなあ。