96 マリー・ハムズン 岩波少年文庫
夏の岩波少年文庫フェア2025、絶賛開催中である。今年は応募券三枚で「長くつ下のピッピ」か「小さい牛追い」をモチーフにしたアクリルキーホルダーがプレゼントされる。去年は二枚だったのに、今年は三枚か…とぶつぶつ言いながら、いそいそと書店に足を運ぶ私。三冊購入、すぐに応募券を送ったけど、ピッピが当たるといいなあ、と思っていた。
というのも、この「小さい牛追い」は未読だったからだ。買ってすぐ読んだ。石井桃子さんの翻訳は、私には馴染があって読みやすいのだが、今の子どもたちにはどうなんだろう。おっとりしすぎではないのかしら。ちょっと心配になるが、私は好きだ。この物語は、ノルウェーの「やかまし村の子どもたち」みたいなものかな。やかまし村は、ひたすら楽しい子ども時代を描いていたけれど、これはもう少し内面を深く描いていて、楽しいばかりじゃない。でも、そういうものだものなあ、子どもの生活って。
ノルウェーのランゲリュード牧場には子どもが四人いて、上は男の子ふたり、オーラ十歳とエイナール八歳。この二人が主人公である。オーラは本を読むのが好きで思慮深い。エイナールは冒険家で勉強は嫌い。オーラは思い悩むタイプで、エイナールはどんどん前進する勇敢なタイプだから、読者の多くはエイナールのほうが好きかもしれない。でも、私は断然オーラ派。思えば、子どものころから、スポーツが得意な子よりも、頭でっかちであれこれ理屈をこねるような男の子のほうがずっと好きだったからなあ。その傾向は今もって続いている(笑)。
ノルウェーの冬は長い。夏が来ると、農場の家族は山の上の牧場に上がってそこで暮らす。自分たちの家畜だけでなく、他の人の家畜も預かって山の上の牧場に放牧し、ひと夏かけて太らせてまた帰ってくる。子どもたちも、交代で山の家のさらに奥にある牧場まで一人で家畜を連れて行き、夕方まで番をする。八歳でも十歳でも重要な労働を担っている。自然には様々な危険も脅威もある。子どもたちはかなり危ない状況にも出会うが、なんとかそれを超えて(そしてたまに失敗しながら)経験を積んでいく。見守る大人たちの我慢強さもかなりのものだ。兄弟間の葛藤や思いがけない出会いなどが描かれる。夏は終わるが、気になる出来事はまだ残されていて続きが読みたいなあと思っていたら、ありました、ありました。「牛追いの冬」。早速探して読まなくちゃ、と思った私。
作者は1920年にノーベル賞を受けたノルウェーの著名な作家クヌート・ハムズの妻だそうだ。この夫婦は洗練された都市文化を否定し、自ら原始的な農民生活をしていたそうで、この本は自分たちの子どもたちの生活をもとに書かれたという。
ノルウェーは大好きな国だ。そこに生きる子どもたちの物語も素直に楽しめた。ピッピじゃなくて「小さい牛追い」のキーホルダーが当たったとしても、大事にしよう、と思える本であった。
